ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
歴史に残る“栄誉ある”敗北――。
ドネアに完敗した西岡利晃の偉業。
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byREUTERS/AFLO
posted2012/10/15 11:20
「やるだけのことはやった。でも今は悔しいだけ」と試合後に語った西岡。今後について本人は「まだ分からない」とコメントしたが、帝拳ジムの本田明彦会長は「勝っても(現役は)終わりのはずだった。本人も納得していると思う」と引退を示唆した。
勝負の分かれ目だった4、5回に、何があったのか?
手の内の探り合いがひと通り終わった4、5回が勝負の分かれ目だった。飯田氏にはそう映ったという。
「4、5回に“かまし”でいいから左ストレートやワンツーを打ち込んでいたら、という気持ちはあります。胸元でいいから、ドンと1発かまして、相手に『危ないぞ』という印象を与える。西岡選手が動いたのは6回でした。私の目から見ると(相手を調子づかせた)4、5回がもったいなかったように思います」
3回が終わったときのドネアは、まだ西岡の動きを把握しきっておらず、手を出してはいたものの、踏み込みも甘かった。ドネアが西岡の左ストレートを非常に恐れていたのは間違いない。常にコンパクトなスイングを意識し、間違ってもカウンターをもらわない、という徹底ぶりは、ここ2、3戦では見られなかった姿だった。ドネアはポイントを獲得しながらも、あくまで慎重に手探りのボクシングに終始していたのだ。
井の中の蛙を嫌い、世界へ飛び出した先駆者としての偉業。
西岡が仕掛けた6回の時点で、ドネアは既に西岡の動きをかなりつかみ、自分の攻撃が機能し始めていると実感していた。言うなれば少し余裕が生まれていた。結局、6回にドネアが奪ったダウンで試合の流れは決定付けられることになる。
西岡はこのピンチを懸命に打ち返して逃れたが、再度前に出た9回、右カウンターの餌食になってしまった。
「満足感とか達成感というものはまったくない。ただ悔しい気持ちでいっぱいです」
試合直後、日本人ボクサーのパイオニアとして活躍してきた西岡は記者の質問にそう答えたという。
そう、36歳の元世界王者は日本ボクシング界における21世紀の開拓者と言えるだろう。
始まりはWBC正規王者時代の'09年5月、敵地メキシコに乗り込んでジョニー・ゴンサレスをKOしたV2戦だった。
ボクシングの聖地ラスベガスに乗り込んでラファエル・マルケスを下した昨年10月のV7戦で「ニシオカ」の名前は米国でもはっきりと認識されるようになった。