REVERSE ANGLEBACK NUMBER
18年間挑戦者であり続けた男――。
西岡利晃が貫いた王座以上の美学。
text by
阿部珠樹Tamaki Abe
photograph byREUTERS/AFLO
posted2012/10/24 10:30
無念の9回TKOだったが、帰国した西岡は「最高の舞台だった。こんなに大きな試合ができて幸せ。負けたけど、悔いは一切ありません」と穏やかに語った。引退も囁かれるが、本人は「もう少し考えて、自分の口から言いたい」と明言を避けている。果たして……。
西岡利晃とノニト・ドネアのWBCダイヤモンド・WBO世界スーパーバンタム級王座統一戦は、9回TKOでドネアが勝った。西岡は6回に最初のダウンを喫し、9回に2度目のダウンをしたあと、さらにパンチをもらったところでセコンドからの申し出でレフェリーが試合を終わらせた。
TKO負けという結果もそうだが、決着までのジャッジたちの採点もドネアが8回を除いてフルマークだったのに対して、西岡はすべてのラウンドでポイントを奪われ、大きくリードされた。有効打の数でも西岡はドネアの4分の1にも満たなかった。
では、西岡に全く勝機がなかったかといえば、そうともいえない。12回を3分割して、序盤はほぼ守りに徹して出方をうかがい、中盤からボディで相手の動きを止め、9回以降の終盤で決着をつける。それが西岡のプランで、途中まではそのプランどおりに試合を運ぶことができた。
西岡の最後の戦いに、テクニカルな批評は無用ではないか。
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ほころびが生じたのは攻勢をとったときだ。5ラウンドから予定通りに左のボディを出しはじめた西岡は、6回も攻勢に出るが、そこでドネアの強烈な左アッパーを受けてしりもちをついた。試合が決まった9回もダウンする直前は右のジャブを連打して、相手をロープに押し込んでいた。この日最初の3連打、4連打で、会場の声援が一気に高まった。そのとき、カウンター気味に右ストレートをもらって、再びキャンバスに腰を着いた。攻撃しているときが一番危ない。古典的なセオリーを忠実に再現したような試合だった。
若い挑戦者ではない。すでに7回も防衛を重ね、4年も王座にいる西岡が、攻勢のときこそピンチが潜むというセオリーを知らないはずはない。もっと慎重に攻めるべきだったとか、序盤から手数を多くしてポイントを奪うような戦術を選んだほうが勝機があったといった評価を下すこともそう乱暴ではない。
しかし、西岡がこの試合に臨んだステップを考えると、そうしたテクニカルな批評は表層的過ぎるだろう。
もちろん勝って、数人しかいないWBCのゴールデンベルト保持者になることが、西岡の最大の望みだった。だが、おそらく、西岡にはもうひとつの願望があったのではないか。それは挑戦者でいたい、その立場を全うしたいという願望だ。