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ランニングブームはなぜ広がったか?
買いたい人を増やすマーケティング術。
text by
葛山智子Tomoko Katsurayama
photograph byNanae Suzuki
posted2012/06/12 10:30
東京マラソンは2007年2月18日に初めて開催され、申込者は9万500人余。約3万人がフルマラソンと10キロコースに分かれて首都を走り抜けた。申込者は毎年増加し、今や3万5000人を超える参加枠に28万人を超える応募がある。
生姜ブームはなぜ起ったか。
ランニングシューズ以外でも、「空気感」の醸成は行われている。たとえば、生姜入り食品。永谷園をはじめとして多くの生姜入り食品が出て空前のヒットとなった。
その背景にあったのが、女性の体の悩みである。
多くの女性が肩こり・腰痛、肌荒れ・くすみに悩んでいる中、今までの一時的な悩み解消法ではなく、身体の中から変わること、つまり冷えをとる重要性がネットや女性誌などで特集され、冷え解消への意識が高まった。
またナチュラルイメージの有名女優やモデルが生姜を愛用していることが分かると、身体を温める生姜は健康と美容に欠かせないのではないかという空気感が出来上がる。サプリメントとしての生姜効果ではなく、食生活から改善したいと思う人も増え、コンビニで見かけた生姜入り食品を手にするようになるのである。
ここまできてやっと、生姜成分含有量などをメーカーごとに比較をして買う人が出始めるのである。いわゆるメーカー間での差別化ポイントの効果が出るステージである。
永谷園は、まず「空気感」を醸成するために、「永谷園生姜部Webサイト」を開設し、生姜についての知識や理解を深めるプロジェクトを実施した。その結果、同社の『「冷え知らず」さんの生姜シリーズ』は、2008年に対前年比200%を超える勢いの売上を記録したといわれている。
マーケティングの第一歩は買いたい人を増やすこと。
売上をつくるために、懸命に自社製品を売ろうとする。しかし……その前に歩を止めて、本当にその人は、そもそもその商品を買う必要性を主体的に実感しているのかを確認してほしい。
マーケティングのファーストステップは、商品の差別化を伝えるのではなく、その商品こそが自分の悩みを解決してくれるものだと感じる人を増やすことであろう。「その商品こそが自分にとって必要!」という意識を市場の中にうえつけることが重要である。
今回は、市場の活性化など大規模な事例についてみてきたが、この考え方は営業活動の場面でももちろん活かすことができよう。優れた営業パーソンは、自社製品の特徴を話す前に、お客様自身が「買う必要性」を自ら見出すような空気感をコミュニケーションの中で作り出しているのである。読者の日々の仕事にも応用して活かしてもらいたいと思う。
今回のポイント
◆自社製品の差別化ポイントを伝える前に、「それが自分に必要だ!」と
思わせる空気感をまずつくっているか
◆その空気感を作るには、顧客自らがその必要性に気付く(押しつけがましくない)
仕掛けと、インフルエンサーによる信頼感(お墨付き)が必要
さて次回は、ロンドンオリンピック開催も近づいていることなので、オリンピックマネジメントの事例を取り上げる予定である。製品・サービスの優位性を伝えながら商品自体(「モノ」)を売るだけではなく、顧客がその製品・サービスを通してどのようなベネフィット(利益・満足)を得るのかに注目し、「コト」売りをすることの意味を考えたいと思っている。
参考:アスキー新書「新版 戦略PR」 本田哲也