濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
米国で完敗の青木真也がもたらした、
総合格闘技の新たなる世界観。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph bySusumu Nagao
posted2010/04/24 08:00
いわゆる猪木-アリ状態が繰り返され、会場からは青木に対する不満のブーイングが巻き起こった
青木真也がギルバート・メレンデスに完敗を喫した4.17『STRIKEFORCE』ナッシュビル大会は、日本ではインターネットでライブ配信された。告知は大会直前だったが、視聴者数は予想を上回る約4万人。青木が所属するDREAMのオフィシャルサイトに設けられたBBSには、日本でのビッグマッチに匹敵する数の書き込みがあった。
反響の大きさは当然のことだった。この一戦は、単なる“日本人選手の海外挑戦”ではなかったのだ。
青木vs.メレンデス戦は、DREAMとSTRIKEFORCEの提携関係から実現したものだった。青木はDREAM王者として“敵地”に乗り込んだのだ。まして彼は、J.Z.カルバンやエディ・アルバレスといった海外の強豪に勝利し、昨年大晦日にはライバル団体であるSRCの王者・廣田瑞人にも完勝している。
日本では図抜けた存在であり、日本の団体に所属するファイターの中で最も世界に通用する存在だと思われてきたのが青木なのだ。また、青木は海外で行なわれる試合を分析し、最先端の技術を取り入れ、常に“世界”を意識して闘ってきた選手でもある。
ルール論争と“世界の中の日本”。
そんな青木が、実際に“世界の舞台”で闘ってみると何もできなかった。メレンデスの打撃に圧され、タックルは見切られ、パンチを浴びて腫れ上がった顔を涙で濡らしてケージ(金網の試合場)を降りることになったのだ。その姿に何も感じなかった者などいないだろう。
青木を擁護するにせよ批判するにせよ、多くのファンが言及していたのがルールである。PRIDEの流れをくむDREAMでは試合がリングで行なわれるが、アメリカではケージが主流だ。またアメリカでは道衣やロングスパッツの着用が禁止され、試合時間もDREAMが1ラウンド10分・2ラウンド5分なのに対し、5分3ラウンド(タイトルマッチは5ラウンド)制になっている。
「DREAMで闘ったら青木が勝つんじゃないか」と希望を語る者がいれば「ロングスパッツを脱いだら青木は弱かった」と実力そのものを疑う者もいる(ロングスパッツは寝技の際の“滑り止め”になると言われている)。「世界基準で勝つためには、DREAMもケージを導入してルール変更すべき」という“開国派”がいる一方で、「それでは日本独自の魅力が薄れてしまう」とする “攘夷論”もある。
様々な意見がある中で、共通しているのは“世界の中の日本”、“アメリカと対峙する日本”を濃厚に意識しているということだ。