濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
米国で完敗の青木真也がもたらした、
総合格闘技の新たなる世界観。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph bySusumu Nagao
posted2010/04/24 08:00
いわゆる猪木-アリ状態が繰り返され、会場からは青木に対する不満のブーイングが巻き起こった
PRIDEの“残り香”が消え去った先にあるもの。
以前は、そうではなかった。日本にはPRIDEという世界最大にして最高峰の総合格闘技イベントがあり、ファンはそこで行なわれる闘いだけを意識していればよかった。アメリカはあくまでも“ローカル”だったのである。だが、いまや立場は完全に逆転した。すでに格闘技の“首都”がアメリカであることを疑う者はいない。史上最大のMMAブームに沸くかの地には世界中から強豪が集結し、格闘技熱が冷え込んだ“かつての首都”における最高の実力者は完敗を喫してしまった。
「僕が負けたらDREAMは終わる」。青木はそう言ってアメリカでの闘いに臨んだ。そして彼が敗れた今、DREAMが象徴する日本だけの“時代区分”は確かに終わったのだと言える。DREAMにPRIDEの“残り香”を探し、日本を中心とした“天動説”で格闘技界を見る時代は、2010年4月18日(あえて日本時間で記す)で終焉を迎えたのだ。
だが、それは決して悲しむべきことではない。青木の敗北と引き換えに、日本の格闘技ファンはサッカーファンやラグビーファンが当たり前に持っているもの、すなわち世界規模でジャンルを捉える視野を獲得したのだ。
世界の舞台で勝つために、日本は何をすべきか。日本格闘技の新たな時代は、スポーツとしての根源的かつ真っ当な課題に取り組むことから始まる。