詳説日本野球研究BACK NUMBER
逸材揃いだった夏の甲子園を総括。
スカウト注目の54選手を一挙紹介!
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byHideki Sugiyama
posted2011/08/24 10:30
金沢・釜田佳直投手は、3回戦の習志野戦で今大会タイ記録の153キロをマークするなど9奪三振2失点と好投するも、1-2で惜敗した
バントよりもホームラン!? 高校球界に訪れた変化の波。
ここでは広く「日本球界」にまで視野を広げて野手の評価をしてみたい。日本球界に不足しているのは長距離砲である。WBCにおける得点力不足は“負の記憶”として一瞬も頭から離れない。
第2回WBC以降、中村剛也(西武)、T-岡田(オリックス)、中田翔(日本ハム)など長距離砲が台頭したのは、生き物がすべて身に備えている自然治癒力のようなものではないのか。そして今大会、高校球界にもようやく長距離砲待望の波が押し寄せたという感じがする。
話が脱線するが、8月28日から始まるアジアAAA選手権の日本代表に、横尾、北川とともに、甲子園大会未出場の高橋周平(東海大甲府)、谷田成吾(慶応)が選ばれている。ともに高校通算70本塁打以上を記録する長距離砲で、8月21日付けの日刊スポーツ紙は「地方大会で敗退した選手の選出は異例」と報じている。
スター主義を敬遠する傾向にある日本高等学校野球連盟(高野連)でさえ、国際大会での得点力不足を憂慮しているような選出の仕方ではないか。私には、日本球界の危機感がひしひしと伝わってきた。
清原、中田翔に匹敵する北川と高橋の超弩級ホームラン。
話を戻して、長距離砲の北川と高橋が今大会放った超弩級のホームランをここで再現してみよう。
北川は1回戦の北海戦、第2打席で逆方向の左中間にライナーで放り込んでいる。甲子園最深部の左中間(右中間も)にライナーのホームランというのはあまり見たことがない。投手は選抜大会の8強進出に貢献した玉熊将一で、投げたボールは低めの139キロストレート。けっして易しいボールではない。2回戦の習志野戦では第2打席、大野駿の135キロ内角高めストレートをバックスクリーン右へ放り込んでいるように、広角にホームランを打てるというのが北川の最大の魅力である。
高橋のホームランは飛距離では北川の上をいく。2回戦の新湊戦で放ったレフトスタンド中段近くへの一発は、1985年に清原和博(PL学園)が準々決勝の高知商で放った一発、2006年に中田翔(大阪桐蔭)が1回戦の横浜戦で放った一発には及ばないが、打球の強さではそれらに迫る、今大会ナンバーワンと言ってもいい迫力だった。
北川にはアジアAAA選手権が残されており、2年生の高橋には来年の春、夏の甲子園大会で今大会の再現が期待できるので楽しみにしたい。