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バンクーバー五輪、最終日の風景。
爆発的賑わいと、忘れ得ぬ選手たち。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byGetty Images
posted2010/03/02 00:00
バンクーバー五輪、最終日の風景。爆発的賑わいと、忘れ得ぬ選手たち。
浅田には4年後への課題がハッキリ見えた。
今、閉会式が始まった。選手が入場してくる。日本は、浅田真央が旗手。両手で日の丸を掲げている。
フリーでは中盤、惜しくもジャンプでミスが出たとはいえ、今シーズンの不調からよくぞ立て直したと思う。だから、世界一を狙うための課題も見えた。
おそらく、フリーですべて完璧に演じても、キム・ヨナのフリーの得点は上回れなかった。浅田は、トリプルアクセルにショート・フリーあわせて3回挑み、成功させた。見事だった。一方で、3回転ジャンプのうちルッツに苦しめられ続け、昨シーズン、回転不足を取られがちだったことからトリプルアクセルより基礎点の高い3-3の連続ジャンプを外さざるを得ない事情もあった。バリエーションが限られる中での選択肢が、複数回のトリプルアクセルの選択となったわけだが、3-3の連続ジャンプをはじめ完成度の高いキム・ヨナを追い越すには、足りなかった。
だが、繰り返すが、立て直したからこそ課題が見えたのだ。それを克服する力は浅田にはあると思う。4年後を楽しみにしたい。
浅田だけでなく、今大会は本当に記憶に残る選手が多かった。
地元カナダでは、決勝でノルウェーを下しソルトレイクシティ五輪の決勝で同国に敗れた雪辱を8年越しに果たしたカーリング代表のスキップ、ケビン・マーティンの冷静さとその読みが見事だった。
ジャンプで、ソルトレイクシティ以来となるノーマルヒル、ラージヒルの2冠に輝いたシモン・アマン(スイス)。他の選手とは強さの次元が違った。
ベテラン選手の逞しい姿が若い選手たちを育てる。
日本の選手たちにもむろん、強い印象を残した選手がいた。
大怪我を乗り越え4年前の失敗を糧に、日本フィギュアスケート男子初のメダルとなる銅メダルを獲得し、「自分をほめてあげたい」と言った高橋大輔。2本目のレースで起死回生の滑りを見せたスピードスケート銀メダリストの長島圭一郎。
ベテランたちも忘れがたい。「アマンをぎゃふんと言わせてやる」と語った葛西紀明。試合終了後、ただちに「ソチに出たい」と宣言した岡崎朋美の衰えない気力。結果にはつながらなかったが、乾坤一擲、気迫あふれる滑りを見せた里谷多英の涙。彼らが長年、日本代表として活躍できる理由が、分かる気がした。
若い選手たちにとって、彼らの姿こそが財産だ。
閉会式が終わった。
大会は終わり、ソチ五輪への4年が始まる。
その4年間の過程に、再び注目していきたい。