プロ野球亭日乗BACK NUMBER
落合采配の「ふたつの顔」。
~絶対的信頼と絶対的不信~
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byKYODO
posted2009/10/21 11:30
ヤクルトとの最終戦、落合監督がデントナの左翼ポール際への本塁打判定に抗議。遅延行為とみなされ退場となった
よほどの信がない限り、そんなまねはできないはずである。
中日・落合博満監督のさい配で、日本のプロ野球史で語られるものは、2007年の日本ハムとの日本シリーズでみせた完全試合目前の山井大介投手の交代だろう。
日本一に王手をかけた9回。「これが今シーズンのうちの野球だ」と守護神・岩瀬仁紀投手にためらいなくスイッチした。何せ完全試合である。しかも日本シリーズというプロ野球最高のステージでの大記録を目前にした交代指令に、球界では賛否両論が湧き上がったのは当たり前のことだった。
非情と言われる落合采配の真価とは?
だが、そんな賛否両論を無視して、落合監督が語ったひとことが記憶に残っている。
「あんな場面でマウンドに登って平然と抑えてきた岩瀬の凄さをもっと評価すべきだ」
確かにその通りでもある。
当時の岩瀬は絶対的な守護神として君臨していた。だが、日本シリーズで完全試合達成を目前にした投手に代わってマウンドに上がるプレッシャーとはいかばかりのものだったのか? そしてその交代を決断するには、岩瀬に対するよほどの信頼がなければできないことだった。
落合監督のさい配には二つの顔がある。
一つは絶対的な信頼。そしてもう一つは絶対的な不信である。
CSで無死二塁から8番の英智に送りバントを指示。
ヤクルトと対戦したクライマックス・シリーズの第1ステージ。その初戦で象徴的な場面があった。
中日のチェン(陳偉殷)、ヤクルト・石川雅規両投手の投げ合いとなったこの試合で、中日は3回と5回に先頭打者の7番・藤井淳志外野手が二塁打を放った。
無死二塁。ここで落合監督は8番の英智外野手に2回とも送りバントを命じた。
1死三塁は外野に抜ける安打だけではなく内野安打や犠牲フライ、相手のバッテリーミス、場合によってはボテボテの内野ゴロでも得点チャンスが広がる。両投手の調子が良く、僅差が想定された展開。それだけにこの1死三塁のシチュエーションを作りにいくのは常套のさい配ではある。
だが、一つ考えねばならないのは、次の打者が投手のチェンだということだ。