佐藤琢磨 グランプリに挑むBACK NUMBER
ベストレース
text by
西山平夫Hirao Nishiyama
photograph byMamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)
posted2006/10/30 00:00
「イェ〜イ!」
2週間前の鈴鹿と同じく、レースを終えた佐藤琢磨は笑顔でそう言いながら両腕を天に突き立て、記者団の前に現れた。第一声はこうだった。
「最高です!」
19位スタートで、10位チェッカー。今季最上位フィニッシュであるばかりか、内容がすこぶるよかった。最速ラップで9位。周回遅れにはなったが、それは「最後にマッサが来たので譲った」からで「マッサ以外のドライバーには譲る必要はなかった。抜くことはあっても、抜かれることはなかった」という満足の行くものだった。
好調さは試走、予選時からうかがえた。
金曜日の試走で、レギュラー・ドライバーの15位。明けて土曜日午前中の試走で17位。すぐにマシンのフィーリングをつかみ、順調にタイムアップして行ったのだ。
第一次予選は20位だったが、最低通過ラインの16位のタイムまであと0.4秒。
「近かったですね(笑)。シーズン通じてこれだけ接近したことがなかったので、嬉しいです。もう少しスピードがあれば面白かったと思いますが、仕方ないです」
トップスピードはチームメイトの山本左近ともども最低ライン。トップランナーとは10km/h以上の差がついており、いくらコーナーで頑張ってもストレートでおいて行かれてしまうのでは打つ手がない。
「いまのウチにはこれ以上軽いウイングはないんです」と苦笑するが、これは適量ダウンフォースを保持しながらかつ空気抵抗の少ないウイングはないという、スーパーアグリF1チームの苦しい台所事情を表している。
しかし「決勝でのマシン・パフォーマンスは大丈夫。予選でこれだけ接近したので自信はあります。粘って、ひとつでも上でフィニッシュしたいですね」と、明るく語った。
果たして、決勝は期待以上。
「1コーナーは慎重に行きましたが、クルサードとアルバースを抜いて、セーフティカーが退去した後はトロロッソに離されずついて行きました。なかなか前のクルマを抜けないんで、無線でピットに『1周早くピットインさせてくれ』と言って、第2スティントではトロロッソの前に出ることに成功しました。前のクルマに追いつける嬉しさを感じ、レースしてるッ!という気がしましたね」
第2スティントはしばしば1分13秒台の走行を見せたが、これはトップグループとさほど遜色ないタイム。その要因について「タイヤがすばらしかったし、イタリアGPの前にシルバーストンでタイヤ・テストに参加してから、中国〜日本〜そしてここブラジルと、エンジニアリング的にきっちりタイヤ・マネージメントができるようになった」ことを琢磨は挙げていた。
琢磨自身「大冒険だった」というスーパーアグリF1チームへの移籍1年目は終った。来季もこのチームで走る、というその目に、一点の曇りもなかった。