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シューマッハーが見せた
魂のラストレース。
text by
西山平夫Hirao Nishiyama
photograph byMamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)
posted2006/11/01 00:00
ブラジルはサンパウロのインテルラゴス・サーキットで、引退するミハエル・シューマッハーの、胴震いが来るほど凄いレースを見た。
主役は勝ったマッサと、王座に着いたアロンソの二人。しかしシューマッハーは、4位という脇役に終わりながら、その主役二人を食う、すばらしいレースをやってのけたのだ。
アロンソを押しのけて逆転チャンピオンになるには、自力優勝してしかもアロンソが無得点でなければならない。そこで、シューマッハーとフェラーリのプランはこうだった。
予選で最前列独占。スタートからマッサが逃げを打ち、シューマッハーがつける。このワン・ツー・フィニッシュ以外コンストラクターズ・チャンピオンの目はない。戦況によってもしアロンソが得点圏外に去るようなことがあればシューマッハーが前に出る。なければマッサがそのまま突っ走り、故A・セナ以来13年ぶりのブラジル人ウイナーの誕生で幕、そんなシナリオだ。
従来のレコードを破り、2位マッサに約0.5秒、3位アロンソに0.9秒の差をつける1分10秒317のスーパーラップをシューマッハーが記録した第2次予選まで、フェラーリ陣営の筋書きはものの見事に運ばれていた。
しかし、最終予選で最初の破綻が起きる。コースイン直後のシューマッハーに燃料ポンプ・トラブル発生。ノータイムで10位スタートとなったのだ。果たして、そこからライバル達を押しのけてマッサにまでたどり着けるか。
スタートが切られ数周した段階で、シューマッハーがトップに返り咲くことは可能と見えた。たった数周でフィジケラに次ぐ6位に浮上したのだ。この日、フェラーリとブリヂストン・タイヤのパッケージは他を圧しており、前車につけばたちどころにオーバーテイクできた。
しかし、シューマッハーの状況は9周目の1コーナーで暗転する。抜き去ったフィジケラとの接触でタイヤ・パンクに見舞われ最後尾に転落。この時点でシナリオは反古となってしまった。
ところが、ここからがシューマッハーのシューマッハーたるところだった。闘争心の塊に変じた帝王は驚異の追い上げを展開。71周レースの34周目、トップ10まで挽回。2周後には得点圏内の8位入り。残り30周で7位。2回目給油の2周後に最速ラップ樹立。残り20周、バリチェロをパスして6位。残り9周、フィジケラを1コーナーで仕留め5位。そのままの勢いでシューマッハーは4位ライコネンに襲いかかる。