プロ野球亭日乗BACK NUMBER
日本ハム・中田翔の旬を逃すな!
~若手育成の難しさ~
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2009/06/03 06:01
野球選手の「好調」はどれぐらい続くのか。
答えは「不定」である。選手個々の経験や体調、その他様々な外的要因にも左右されて「好調」の波はそれぞれ独自の周期を描く。
ただ、一つの目安となる言葉はある。
打撃指導の名伯楽として知られる中西太さん(現評論家)がこんな話をしていた。
「バッターの本当の絶好調なんて長くて1週間よ。ただ、その前後に必ず登りと下りの坂道がある。ベテランになると下りの坂道をうま~くダラダラと長い坂にできる。逆に若い選手は、絶壁よ! 一瞬にして谷底に落ちていく。だから若い選手の使い方は難しい」
巨人の打撃コーチ時代に聞いた話だ。
原監督の若手起用の妙に中西イズムを見た。
そのとき思い浮かべたのは、巨人のある若手がレギュラーポジションを手にした例だった。
89年のシーズン、緒方耕一内野手(現巨人コーチ)がそうだった。一度は川相昌弘内野手(現中日コーチ)との遊撃レギュラー争いに敗れたが、開幕直後に正一塁手だった中畑清内野手(現評論家)が故障。玉突きで内外野兼任として1番に起用されると好調の波をつかんで、そのまま定位置をものにしてしまった。
もし中畑の故障がなければ、もし起用された試合で打てなければ、そこまでの結果を手に出来たのか?
「若い選手が出てくるときなんて、タイミングよ。そこを、使う側もうまく見定めてやらにゃあ、出てくるものも出てこない」
中西さんの解説だった。
そんな中西さんの薫陶を受けたせいか、巨人の原辰徳監督も若手の使い方がうまい。
今年の巨人は中堅手に、鈴木尚広、松本哲也、工藤隆人らと、谷佳知外野手も加わり、入れ替わり立ち代り起用が続いている。だが、この起用法の特長は、使われた選手が期待に答えて活躍している点だ。
「2軍の若手は昇格させたときが旬。出来るだけ早くチャンスをやりたいね。使うときは3回か4回は打席に立たせるようにしている」
すっかりショートのレギュラーになった坂本勇人遊撃手も、最初はそんな使われ方だった。しかし“第2の坂本”と期待される中井大介内野手は、1軍昇格の翌日に先発で起用され3三振に終わると、そのままファームにUターンしていった。
それも経験ということだ。