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シャーフ監督に正当な評価を! 

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安藤正純

安藤正純Masazumi Ando

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posted2008/01/15 00:00

シャーフ監督に正当な評価を!<Number Web> photograph by actionpress/amanaimages

 人気がある選手、実力に優れた選手でアンケートを取ったら、どの国のリーグでもある程度予想された答えが出てくる。では同じ質問項目の対象を「監督」にしたらどうなるか。ドイツだとこれは間違いなく、ヒッツフェルト(バイエルン)、クロップ(マインツ05)、スロムカ(シャルケ04)、ダウム(1FCケルン)に答が集約される。そこで次に質問をこう変えてみる。「話題になるのと結果を残すのがイコールの監督は?」──。私だったらこう答えるはずだ。「1人もいない」と。

 ちょっと待ってくださいよ。名将ヒッツフェルトがいるでしょ、ダウムだって何度もリーグ優勝してますよ、という反論が聞こえてきそうだが、ヒッツフェルトが最後にタイトルを取ったのは5年も前のこと。昨年、古巣の窮状からやむなく再登板したわけだが、これまでテレビ解説者として十分に稼いだヒッツフェルトは、言葉は悪いが「貪欲さを失い、賞味期限が切れた」ようなものだ。かつて指導をした'90年代のバイエルンやドルトムントのように爆発力溢れるチームを再び作り上げるのは困難な作業である。なにより「今季限り」と最初から宣言していて、“最後の燃えカス”なのである。バイエルンがなんとか首位で前半戦を折り返せたのは、指導力というよりもリベリーとトニ、クローゼがいたおかげだ。

 ダウムはドイツ、オーストリア、トルコでそれぞれリーグ優勝を果たした。タイトル数はこの16年間で8つもある。そして話題も豊富だ。ただし、麻薬や不動産取引などネガティブな話題のほうが。これでは選ぶほうはどうしたって二の足を踏む。

 クロップは快活な人物で、いわゆる“絵になる若造”である。選手の兄貴分としては申し分ない。'06年W杯で毎日出演していたZDFでの解説も、鋭い分析力と愉快な話で視聴者を楽しませてくれた。そしてスロムカ。残念ながら彼の場合は監督の力量からではなく、超人気チームを率いることで否応なく注目を浴びているといったほうが正しいかもしれない。そうでなければ一度も優勝経験がないまま、あれだけ世間に顔が露出するわけがない。

 視点を再び変えよう。質問を「もっとも堅実に仕事を継続している監督は?」にする。私が出す答えはただ1つ。ブレーメンのシャーフ監督である。

 昨年8月のリーグ開幕戦でブレーメンはレギュラー9人が欠場。補欠を含めると15人が故障者リストに名を連ねた。本来のチームに戻るには2ヶ月が必要、つまり10月以降にようやくベストメンバーを組めるという最悪の状態でスタートした。

 この5ヶ月間、シャーフは毎週のようにケガ人の代役を投入してきた。GKヴィーゼ、DFフリッツ、MFフリングス、FWアルメイダの代わりはいないように思われたが、ヴァンダー、ベニッシュ、ニーマイヤー、シンドラーらがしっかりと穴を埋めた。司令塔ジエゴが累積警告のため欠場したチャンピオンズリーグのレアル・マドリード戦では、それまで半年間怪我で休んでいたフントを投入。期待に応える形でフントは自らがトドメのゴールを決めて、3−2の勝利に貢献したのだった。

 これらは決して偶然の産物ではない。シャーフが常日頃から選手に意識付けしている戦略が奏功しただけの話である。リーグとチャンピオンズリーグを戦い抜くため、ターンオーバー制を導入するチームが多くなっている。しかしブレーメンは「練習で好調な選手を見極め、つねに最高のイレブンを起用する」政策を変えようとはしない。となればベテランも若手も関係なく、激しいポジション争いが生まれる。ここがバイエルンと異なる点だ。

 私がシャーフを評価する理由は、指導力、人身掌握の上手さ、リーダーシップ、ロイヤリティである。ブレーメンに入団した選手で誰が失意のまま退団しただろうか、これほど長く1つのクラブに忠誠を尽くしてきた指導者はいるだろうか、フロントからも選手からも監督批判を聞いたためしがない。それだけシャーフは強く信頼され、“いい仕事をしている”のだ。

 外見はお世辞にもいい男ではない。マスコミ相手に笑顔で答えることもない。地道にモノ作りに励むような職人みたいである。そして、つねに泰然としている。まるでサムライのように。そこが男気を尊ぶ北部人気質にピタリとはまるのであろう。11歳で入団して以来、ブレーメン一筋の生活は36年目に入った。他チームに“浮気”したことが1度もないとは驚きだ。

 40年間にわたり2000人もの指導者を育成してきたDFBのルーテメラー氏は、「シャーフが最高の監督だった」と述懐する。「つねに冷静沈着。監督に必要な条件である?人間性?判断能力?経験のすべてを備えているからだ」という。

 綴りは1つ違うが、同じ発音の「シャーフ」には、「鋭い切れ味」「緻密」「頭脳明晰」という意味がある。英語のシャープに該当する。名は体を表わすといったところか。

 ブレーメンは同勝点ながらも得失点差により2位で前半戦を終えた。総得点は首位バイエルンを11も上回るリーグ最多の42である。この5年間、ブレーメンが前半戦で記録した総得点数はリーグ1を続けている。

 ところが、これだけの監督だというのに世間一般のシャーフ評はヒッツフェルトほど高くない。どうしてなのかな、と思う。原因はタイトル獲得の少なさである。リーグ優勝1回、DFBカップ優勝2回は、年季の割には数が少なすぎるのだ。おまけにチャンピオンズリーグでの不振も加わる。これではいくら優秀な指導者とはいえ、人気と実力がリンクしない。そこに彼の唯一足りない部分があるのだ。そういうことだったら、こんな質問も加えなければならないかもしれない。「実力は折り紙つきでも、運に恵まれない監督とは?」──。

 シャーフには後半戦の頑張りに期待して、早く2度目のマイスターになるのを祈るだけである。バイエルン以上にスペクタクルなサッカーを披露しているブレーメンだからこそ、余計にチームと監督にエールを贈りたくなるのだ。

トーマス・シャーフ
オットマー・ヒッツフェルト
ユルゲン・クロップ
ブレーメン

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