ブンデスリーガ蹴球白書BACK NUMBER
欧州CL“バイエルン辛勝”の裏側。
ヨーロッパの頂点はまだ遠い。
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byUniphoto Press
posted2010/02/20 08:00
ブンデスリーガと違い、CLの舞台ではリベリーの単独突破は難しい
「ロベリー」が攻めるほどカウンターが増える悪循環。
不利な体勢でもリベリーやロッベンがボールを受けて、張り巡らされた守備網を強引にドリブルで切り裂こうとする。しかし、強引にしかけようとすればするほど、フィオレンティーナの罠にかかる。複数の選手に囲い込まれて、ボールを奪われ、カウンターを食らう。試合を進めていくことでフィオレンティーナのカウンターの切れ味は増していき、バイエルンのGKブットの仕事も忙しくなっていく。前半は一度もゴールにボールが飛ぶことはなかったが、後半は5回も彼が肝を冷やすことになったのだ。
勝ち越しを狙うバイエルンは、後半の20分過ぎにはゴメスとミュラーに代えて、オリッチとクローゼを投入したが、彼らが戦い方に大きな変化をもたらしたわけではない。
それでも、残り時間も10分を切ったあたりから、紫の壁を破るためにバイエルンの選手たちがミドルシュート次々と放ち、強引にゴールをこじ開けにかかる。対するフィオレンティーナの選手たちが体を張って、瀬戸際で攻撃を食い止めていた。
ホームでの勝ち越し点は明らかなオフサイドだった。
そんな中、89分にロッベンが放ったシュートをフレイがはじく。はじかれたボールにオリッチが頭からつっこむと、最後はクローゼが押し込んでゴールを決めて、勝ち越しに成功する。
だが、クローゼがいたのは明らかなオフサイドポジションだ。
「プレー中はオフサイドポジションにいたわけではないと思ったんだけど……」とクローゼはお茶を濁したが、「明らかにオフサイドだった。我々はラッキーだったね」とファンハールも誤審に助けられたことを認めている。
ロッベンは言う。
「うちのチームには若い選手が多い。だから、色んなところを改善していかないといけないってことだろうね」
下部組織出身の若手選手が多いバイエルンの未来は明るいが……。
若い選手の集まるチームには、課題が山積みだ。ブンデスリーガでは、少しくらい研究されても、最後は力ずくで相手ゴールをこじ開けることができた。だが、CLの舞台ではそうはいかない。憎たらしいほどに強いバイエルンの姿は、この試合では見られなかった。
ただ、そんな若いチームは少しだけ未来への希望を見せてくれた。シュバインシュタイガー、ラーム、ミュラー、バドシュトゥーバー、コンテント。後半開始のホイッスルをピッチの上で聞いた11人の選手たちのうち、下部組織出身の選手が5人もいた。若い選手たちがこうして苦難に直面した経験は、必ずや将来に生きてくるだろう。
試合後の記者会見場。
「クローゼはオフサイドラインより2メートルも前にいたじゃないか!」
少し前までそう憤っていたイタリア人記者が、ファンハールに問いかける。
「3週間後にはセカンドレグがあります。準々決勝に進めそうですか?」
首をすくめてから、ファンハールは答える。
「フィレンツェでも厳しい戦いになるだろう。可能性はフィフティ、フィフティだ」
試合前のような自信にあふれた姿はもう、なかった。