佐藤琢磨 グランプリに挑むBACK NUMBER
ニューマシン
text by
西山平夫Hirao Nishiyama
photograph byMamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)
posted2006/08/01 00:00
「新車とはいえ、自分達の走るポジションは変らないと思います。でも、これまではいちばん近いミッドランドまでも1、2秒のタイム差があって、勝負できるのはスタートの1コーナーまででしたが、ここからはその先の“ツァー”にも参加できます(笑)。ホッケンハイム、楽しみにやって来ました」
ポジティブな話題に触れて明るい佐藤琢磨を久しぶりに見た。これまではややもすると他車との性能差著しいSA05に関する自嘲気味のジョークが少なくなかったのだが、新車SA06を得たここホッケンハイムでの佐藤琢磨は、静かながら歓びを抑え切れないオーラを発していた。
新車SA06は旧型車05に較べて主にマシン後端が異なる。ホンダ製新ギヤボックスを得たことによってシフトスピードが格段に向上したばかりでなく、ギヤボックスそのものが小さく、軽くなり、エンジンもろとも搭載位置が低くなったことで、リヤの安定性が増すのだ。重いものが後肢に付いた獣が走りながら道を旋回すれば外へ大きく振られるだろうし、加速も緩慢になる。その重量物がなくなったと思えば、新車SA06がどれほど機敏なマシンに進化したか想像できる。また、ギヤボックスの小型化でボディシェイプを絞り込め、ダウンフォース増加効果も期待できる。
果たして初日金曜日の初試走が終った後琢磨は「すごくよかった!リヤの安定性が高いのでハイスピードでコーナーに入れるし、オーバーステアが出ない。走ってて楽しいです。予選は願わくばミッドランドの前に出たいですね」と、笑顔をみせた。
それはまるでゴム長靴からスニーカーに履き替えたような開放感とでもいえばいいか。新車投入効果は、なによりドライバーのやる気を引き起こしたことである。
予選の琢磨は19位(グリッドは降格者が2名出たため17位)。しかし“いちばん近くて遠かった”ミッドランドのモンテイロを抑え、アルバースに100分の9秒差まで迫ったのだから、思い通りのところにはまったといえるだろう。
「午前中トラブルが出て新品タイヤを試せなかったんで簡単な予選じゃなかったけど、クルマのバランスがよく、思いっ切り走れました。明日はミッドランドとバトルしたいですね」と、今シーズン予選らしい予選が初めてできたコメントを発した。
しかし、決勝レースはギヤボックスからのオイル漏れでリタイア。それも無念だったが、レース中のペースが上がらなかったことが大きな課題として残った。まともな走行をしたマシンの中で琢磨の最速ラップはしんがりだったのだ。
「プラクティスでロングラン(タイヤ比較のための数周の連続走行)ができてなかったので、甘くはないと思ってましたが、グリップ感がなくてペースが上がらなかった。完走したかっただけに残念です」
しかし、このレースからようやくスーパーアグリF1チームは先行する20台のグループのシッポをつかんだのだ。1週間後のブダペストでは、さらなる進化を遂げるだろう。
ようやく、佐藤琢磨に“真夏日”がやって来た。