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どうしたホンダ!?
text by
西山平夫Hirao Nishiyama
photograph byMamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)
posted2006/07/25 00:00
バリチェロ14位、バトン19位……フランスGPのホンダ勢は予選から低調。対照的にトヨタの予選結果はトゥルーリ4位、ラルフ5位と絶好調だった。ファンならずとも「どうしたホンダ!?」と首をひねるような有様だった。
ホンダが二人とも第3予選に進めず、トップ10グリッドに着けなかったのは今季初。フランス前の北米2戦では二人揃ってトップ10に入っていただけに、急降下の印象はぬぐえない。いったいなぜこんなことになってしまったのか。
不運とミスがまずあった。バトンは第一予選のアタック中にシューマッハーとロズベルグにひっかかり、いわゆる“渋滞”に遭ってしまった。ホンダの中本修平シニア・テクニカル・ディレクターは「クルサード、ウエーバー、ロズベルグ、この3人は絶対道を譲らない。今回のロズベルグなどなんでペナルティを受けないのか理解に苦しむ」と、特定ドライバーのアンフェアさを強調する。バリチェロの方は走行中に2回ミスを出した。
しかし、不運とミスを差し引いてもなおホンダの二人がトップ10グリッドに着けなかった可能性は大。それはタイヤに起因する問題である。
いまのF1の規則では、各チーム2種類のタイヤを持ち込めるが、ミシュランを履くホンダはフランスでタイムの出るソフト・タイプを選べなかった。ソフト・タイプはグリップ力は高いものの、レース本番では熱ダレによるグリップダウンが激しく、すぐにタイムが落ちてしまうと見切ったのだ。事実、決勝時の路面温度は50度をはるかに超えたからこの選択は正解だったし、ルノーをはじめ、大多数のミシュラン・ユーザーもホンダと同じハード・タイプを選んだ。ここまではホンダも間違ってはいなかった。
だが、予選が下位ではどうしようもない。ホンダの課題は、ルノーやマクラーレンと同じタイヤを選んだ時に予選で“一発”の好タイムが出ないことにある。それはタイヤの温度を一時的に短時間で適温まで上昇させる技術の確立がなされてないからだ。
本番でのホンダの二人はエンジン・トラブルでリタイアとなったのだが、レース中の平均ラップタイムは悪くなかった。それだけを取り出せば、じゅうぶんポイント圏内に居られるものだ。しかし、予選が下位で前に数台のライバルがいてはせっかくの好ペースも宝の持ち腐れ。皮肉なのは、多く燃料を積んだためにペースが遅かったバリチェロの数台後方でバトンが“前が開かず”呻吟していたこと。いまのF1レースはアクシデントを別にすればマシン・トラブルによるリタイアはない。であれば、ポイントを獲ろうとすれば、予選で少なくともトップ10に入っていなければならない。
ホンダの開幕ダッシュはすばらしく、バトンは2戦目に早くも表彰台をモノにし、4戦目にはポールポジションを獲った。しかし、シリーズがヨーロッパ戦に入るやポイントを得るのも難しくなり、モナコからは5戦連続無得点。シーズン序盤はともあれ予選で上位につけられていたのだ。
いっぽうトヨタはラルフ、トゥルーリとも開幕から2戦連続で両者二桁予選グリッドと、最悪のスタート。しかし、シーズン折り返しの北米2連戦から持ち直し、コンストラクターズ・ポイントではランキング4位のホンダにあと11点差に迫った。ブリヂストン・タイヤを履くトヨタは、ホンダとは違ってタイヤメーカーとのコラボレーションがうまく回り始めたのだ。
酷暑だったフランスの後も、ドイツ→ハンガリー→トルコと炎熱のグランプリが続く。この間にホンダが持ち直してくれるかどうか。ドイツ前のヘレス(スペイン)テストでのホンダは、気温37度・路面温度52度のコンディション下の3日目、バリチェロとバトンがルノーを抑えて1、2位のタイムを記録している。これが復活のシグナルであればいいのだが。1964年ドイツでF1デビューを果たしたホンダは、今年のドイツGPがちょうど300戦目になる。思い出の地での奮起を期待したい。