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長島茂雄大いに語る。 <再録連載第3回> 

text by

瀧 安治

瀧 安治Yasuji Taki

PROFILE

photograph byTakashi Tsunoda

posted2009/05/25 11:01

長島茂雄大いに語る。 <再録連載第3回><Number Web> photograph by Takashi Tsunoda

[ 第2回はこちら ]

選手育成と同時に、後半戦の巻き返しを期待される巨人。山倉のインサイドワークを例に、長嶋監督の議論は、詳細を極めていく。

(記事内の表記は当時に従い、長嶋ではなく長島のまま掲載しています)

再録連載 第3回(1/3)

山倉は進歩している。

――もう後半戦までに、広島からはかなり離されてしまいましたけど、今シーズン一波乱を起こすということで、やはり来シーズンにつなげていくということですか。

長島 そのへんが一番大事なことだからな。そこらあたりはしょっちゅう気をつけてますよ。たとえば山倉については、打撃のほうは誰しも認めるほどの進歩をしている。非常に力がついてきたと評価されているよ。でも、やっぱりキャッチャーは攻撃よりもディフェンスだからな。そういうキャッチャーに必要なピッチャーへのインサイドワーク、同時に野手全体のリードというものが必要だよな。それを後半の山倉に望むということであって、今後も勉強していくところだよ。

――プレーヤーの中で、全員を見られるのはキャッチャーだけですからね。

長島 だから、具体的に例をあげれば、山倉には毎日毎日ピッチング・コーチに、いわゆる反復練習で攻め方を勉強させてるんですよ。
たとえば阪神の一番真弓なら、一打席目はこう、二打席目はこうというふうに、三打席目、四打席目まで考える。それを一番から二、三、四……九番まで、全部頭の中に入れて組みたててみる。そういう机の上、紙の上でピッチングの攻め方を頭の中に叩き込みながら実戦に入っていくようにする。こういうことを今年の五月からやらせてるんですよ。毎回レポートにしているのを見てもらえればいいけどね、そういう点じゃ、勉強のあとがね。

――進歩してますか。

長島 進歩はしていますよ、確かに。

――かなりスローですか。

長島 まあスローテンポだけどもね。いわゆるダウンはしてない。スローだけども、着実にそういうインサイドワークは進歩している。そして高橋スコアラーの現場で見た記録と、山倉が前もって考えた記録とを常に対比して、きょうの試合の問題点はどこかというものを研究しているんですよ。そういうものをシーズン中も全選手にテーマを作って、教育していくわけですよ。

批判を怖がっていては、選手の育成は出来ない。

――そうするとミスも目をつぶらなきゃいけないということもでてくるでしょう。特に今シーズンの前半戦はミスから負けた試合が多いんじゃないですか。

長島 育てるときは、やっぱり目をつぶって育てていかにゃあならんからね。そうして使っていくうちには、何かと批判的なものも出てくることもあるでしょうけど、そういう批判なんて怖がってちゃ、選手を育成することなんて出来ませんよ。とにかく批判的なものや、その他、すべての雑音に目をつぶらにゃいかんのですよ。新浦が一本立ちするまでもそうだったでしょう。今年は山倉が一本立ちする手前ですよね。

写真

――その次は松本ですか。

長島 やっぱり松本にも目をつぶって育てていかにゃならんからね。

――多少のミスには目をつぶるといっても、1点差で負ける試合がすでに20試合ですか。対策は考えてあるんですか。単純に計算しても、1点差ゲームを五分にしていれば、それだけで首位争いに加わってますよね。

長島 それは考えてますよ。単に数字的な分析は完全にできてます。しかし数字ばかりがすべてじゃないということもあるんです。
うちのチームっていうのは、過去に1点の壁なんてなかったですよね。1点や2点なんてワンチャンスでひっくり返しちゃうんだから。それが今年はその1点がランナーがスコアリング・ポジションにいても、あと一本が出ない。「なんとかしろ」とぼくも言いつづけ、周りからも何度となく言われつづけたことか。2対1あたりでリードしてて、後半7回、8回あたりで一球のミスであっさり逆転されるというようなケースが何回あったことか。
でも、結局は力がないという結論になる。しかし、それは今でも毎日、なんとか技術を向上させようとしている。そして、それ以外にも何とか1点の壁を突き破っていこうと……。

【次ページ】 みんなヤング・ボーイ。精神力が必要。

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