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王貞治「監督日記」 勝算われにあり! <再録連載第3回> 

text by

瀧 安治

瀧 安治Yasuji Taki

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photograph byKazuhito Yamada

posted2009/05/25 11:00

王貞治「監督日記」 勝算われにあり! <再録連載第3回><Number Web> photograph by Kazuhito Yamada

[ 第2回はこちら ]

「まるで雲の上を歩いているよう」だった初勝利の余韻にひたる王監督。しかし連戦連勝とはいかず、我慢の日はまだまだ続く……。

再録連載 第3回(1/2)

●昭和59年4月11日(水) 対中日2回戦(1-3)

ようやく血が通い始めた。

 昨日勝ったせいかテレビ、新聞記者の取材も思い切ってせめてくる。これまでは弱い巨人に遠慮していたのかな。これでようやく強い巨人のペースになると思った。勝ちさえすればマスコミの皆さんも思い切ったことを書けるだろうし、今までに書きたくても書けなかったことをストレートにやれる。マスコミの人達ともこうやって互いに戦いながら俺は今までやってきた。それが監督になって勝てないでいる間は、なぜか記者の人達も、奥歯にものがはさまったものの言い方であった。巨人軍、マスコミ、ファン、このつながりにようやく血が通い始めたようだ。

 試合は負け、左の都に完敗である。何も言うことなし。明日、明日。

△昭和59年4月12日(木) 対中日3回戦(4-4)

成功を信じたスクイズのサインが。

 90パーセントの勝利を期待して江川登板である。またもエラーによる失点である。いい時はエラーしても点にならないが、ことごとく点にからんでいる。もっと思い切りのいいプレーをやればいいのだ、見事なエラーをしてくれた方がいい。結局は練習の時から、得点は0-0、9回裏2アウト、ランナーサード、の気持でやってさえいれば済むことである。バカみたいに丁寧にやるということも必要である。一度失敗してから、それに気が付くようではプロではない。ミスらないように普段の練習からちゃんとやっとかなければ駄目だ。

写真

 今日は代打が成功した。松本に代えてスミス、篠塚に代えて淡ロ。人には思い切った作戦と映ったかもしれないが、俺からすれば勝ちにいくために、しっかりと確率をふまえた代打起用であった。130ゲームの長い道のりには思い付きや、勘だけでは乗り切れないものがある。そういう点からいけばデータはウソをつかない。今回失敗しても、一年が終ってみれば歴然とその結果は出てくる。

 スクイズのサインを初めて出す。相手のエラーで逆転してなおランナーサード、江川が走者である。山倉がホームインして江川が三塁ベースに駆け込むとすぐスクイズのサインを出す。あのまま相手ピッチャーが交代せずに投げてくれれば、おそらく成功したと思う。ところが、サインを出した後でピッチャーが代った。一球一球投球練習をするごとに、スクイズだぞ、スクイズだぞ、とグングン鈴木康友の緊張が増していく。ベンチから見ていても、少しずつ鈴木の筋肉がこわばっていくのが読めた。

【次ページ】 江川よ、マウンドにグラブを叩きつけろ。

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王貞治
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