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打たれた球をどう生かすか、です。
text by
永谷脩Osamu Nagatani
posted2004/05/06 00:34
城島が若い時代に受けた投手は、力で押すタイプではなかった。これが力任せの投手ならば、ともかく外角低めの安全第一を考えればよかった。だが、コントロール主体になると、どこで遊び球を使い、ボール球を要求すればいいかが、常に勝負の分かれ目になってくる。そして、「最初はサインを出しても、なぜそんなサインを出したのかと怒られましたけど、何とか分かろうとしているうちに、サインを出す面白さも分かってきた」と言うまでに成長していったのだ。
優勝ということが選手を大きく成長させ、日本シリーズという大舞台が、トータルで物事を考えられるようにすると言われる。
城島にとって、初めての大舞台の経験は'99年、入団5年目のことだった。その年、ダイエーは中日と日本シリーズを戦っている。
初戦、ダイエーはベテランの工藤を先発に立てた。中日打線の鍵を握るのは、4番を打つゴメスであった。試合前のミーティングで、スコアラーの豊倉孝治はゴメス対策を城島に説明した。
「但し、困ったときのデータであり、データ通りにやって成功するのは、ペナントでもせいぜい2週間くらいのもの。だから、感性でやってくれ、と普段は言っている。だけど、城島は肝心なところで、データをきちんと生かしてくれるんです。ゴメスにしても、インハイのストレートと、反対にインローの変化球に弱いというのが分析できていた。それを第3戦以降できっちりと証明してくれたのです」
城島がそうしたのには、理由があった。
「僕たちには、勝つことによって皆が幸せになれるシステムがなければいけない、と思っている。自分たちがいい結果を出し、成績を残すことで、高い年俸が貰える。それによって、家族もいい思いができなければいけない。勝ってもいい思いができない、というシステムではおかしい。勝っていい思いができると思うから、僕たちは勝負にこだわる。その僕らの勝ちのために、いろんな人がいろんな方面で協力してくれている。
例えば、スコアラーの人たちにしても、日本シリーズになれば、徹夜で相手の戦力を分析してくれている。そういう人たちに報いるためにも、データをどこで有効に使えばいいのかを考えるようにしている。ここ一番のピンチのときに、データ通りの配球をして抑えられればスコアラーの人の労に報いることにもなるし、そこで信頼関係が生まれる。そして、投げた投手にも自信になっていくと思う。データというのをどこで生かすかは、勝負の流れの中で大事ではないかと思う」
初戦、工藤は日本シリーズの経験者らしく落ち着いたピッチングをして、中日打線から11個の空振り三振を奪っている。ストライクゾーンからボールになる変化球を多用することで、面白いように空振りが取れたのだ。