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レアルに守備的戦術は許されるのか?
モウリーニョが戦っている2つの敵。
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byGetty Images
posted2011/04/29 08:00
ポルトでの栄光を引っ提げ2004年に名門チェルシーに移り、プレミア優勝など数々のタイトルをもたらし、自他共に「名将」と認められたモウリーニョ。だが、その頃を境に、経営陣やメディアとの戦いも激化していったことは皮肉な話でもある
ついにモウリーニョが伝家の宝刀をレアルで抜いた!
たしかに戦術的に光るところもあるにはある。
DFのペペをMF、それも中盤の底ではなく前目に配置してボールをチェイスさせるのは、2シーズン前にマンUなどが採用し始めた極端なフォアプレス(マンUの場合は“ディフェンシブ・フォワード”のテベスと、フォワードよりも前に上がるディフェンシブ・ミッドフィルダーのフレッチャー)の流れを汲んでいる。
また異常なまでにコンパクトなラインを保ちながら、4-3-3から4-2-3-1、そして4-1-4-1や4-5-1、5-4-1までシステムが絶えず変化していく手法も、良し悪しは別としてサッカーが進み得る一つの方向性を示していた。
ただしコパ・デル・レイの決勝について刮目すべきは、戦術の進化云々ではない。
モウリーニョが十八番ともいえる守備的な戦い方を、ついにレアルでも実践した点だろう。
欧州随一の名門レアルに、カウンター戦術は許されない。
冒頭でふれたように、昨年11月に行われたバルサとの1回目の頂上対決、モウリーニョは0-5で歴史的な大敗を喫している。その際にサッカー関係者の間でさかんに囁かれたのは「さすがにレアルだからね」という文句だった。レアルはCL最多優勝回数を誇る欧州随一の名門である。かくも伝統と格式あるクラブが、ひたすら守備を固めてカウンター狙いに徹するなど、許されることではない。
ところがモウリーニョは、このタブーを堂々と破ってみせた。それがクラシコ4連戦の初っ端、守備を固めて退場選手の穴をうめ、バルサと1-1の引き分けに持ち込んだリーガ32節の試合だった。
当然、レアルの顔役はモウリーニョに激怒。名誉会長のディ・ステファノはマルカのコラム欄に次のように書いたほどである。
「バルセロナはサッカーをしたし、踊るようにプレーしたが、マドリーはここからあそこへと、ずっとダッシュしているだけだった。このチームには個性がない。アプローチが明らかに間違っている」
ところがモウリーニョは一向に気にしなかった。曰く。
「私は監督だ。ディ・ステファノではない」