欧州CL通信BACK NUMBER
次元が違い過ぎて勝負にならない?
シャルケ対マンUの残酷な90分間。
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byMan Utd via Getty Images
posted2011/04/27 12:40
37歳のギグスと競り合う23歳の内田。ギグスは、その長いキャリアのすべてをマンUで過ごし、11度のプレミアリーグ優勝と2度のCLの優勝を経験している伝説的な選手。このマッチアップは、内田の中に何を残すのか……
反撃に出るべきシャルケは、疲労困憊の極みにあった。
そこからのマンUは徹底して、リスクを排していくだけ。まずはFWエルナンデスを下げて、ルーニーの1トップにして中盤を厚くする。最後はそのルーニーまで下げてしまった。
反撃に出るべきシャルケは、もう力が残っていなかった。前半からの相手の攻撃を「ジャブ」のように受け続けたからだった。シャルケの選手たちはマンUの選手よりも、6キロ近く長い距離を走っている。それでいてマンUのボール支配率は65%に及んだ。
走行距離でこれほど差がつくのは珍しい。ふつうは長い距離を走ったチームが相手を圧倒しているケースが多いのだが、今回は違う。
ボールは疲れない。ボールを走らせたマンUも疲れない。相手とボールに翻弄されたシャルケの選手たちは疲れ果てていた。
バランスを気にする内田が、逆サイドまでがむしゃらに走り回った。
一つだけ、目を引いたのは後半の42分のこと。この試合を象徴する瞬間だったのかもしれない。
相手陣内の右サイドに攻め上がっていた内田は、味方がボールを奪われるシーンを自身のすぐ前で目にした。ボールを奪ったマンUは中央を経由して、逆サイドにパスをつないでいく。キャリック、スコールズ、ファビオへと、内田は次々にボールホルダーに向かっていった。気がつけば、右SBの内田が左サイドにいた。「バランスをとらないといけない」と語っているサイドバックはバランスなど気にせずに、相手に食らいついていった。あれは何だったのか。
「せっかくここまで来て、2点とられて沈んじゃったままでいいのかなと思って。なんか、こう……みんな疲れているなら、じゃあ俺行くわって。ボールを追いかけることくらいなら、出来るかなとね。もちろん、ボールをとれないのはわかっているけど……やらなきゃいけないんじゃないかなと」
そして内田は、こう続けた。
「そりゃ勝ちたかったよ。勝ちたかったっていう言い方はおかしいかもしれないけど……」
「(2ndレグで逆転するのは)本当に、本当に難しい」(ラウール)
あまりに対照的な両チームだった。
ホームで行なわれた1stレグを0-2というスコアで落としたシャルケは、絶対的に不利な立場となった。
「(2ndレグで逆転するのは)本当に、本当に難しい」とラウールが語り、「0-1であれば、まだチャンスがあったんだけど……」とノイアーも肩を落とした。
ホームで行なわれた1stレグで敗れて、2ndレグで逆転したチームは歴史上2つだけ。しかも、いずれも1stレグでは0-1での敗戦。最少の失点で、最少得失点差だった。
試合が終わってから2時間もしないうちに、スタジアムの入り口に飾られていた氷のビッグイヤーの彫刻は片づけられていた。試合前には自信に満ち溢れていた警備員も、自虐的なジョークを飛ばすことしか出来なかった。
「氷は、溶けてなくなったよ!」
夢のビッグイヤーも今はもう、見えない。絶望的なスコアを手に、シャルケは「夢の劇場」での2ndレグを迎えることになってしまった。