オリンピックへの道BACK NUMBER
ひとりではなく、オールジャパンで!
スポーツ選手の支援と本当の「復興」。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byTakaomi Matsubara
posted2011/03/30 10:30
25日、11時30分~13時まで渋谷駅西口付近で募金活動を行なったALSOK所属のアスリートたち(写真左から伊調馨、塚田真希、吉田沙保里)。実家が青森県・八戸市で親族・知人も多い伊調は「今は自分にできることを精一杯やるしかない」と必死に募金を呼び掛けた
取り残される不安を癒やしたアスリートの眼差し。
仮設住宅に住む彼らには、実はそれ以上に恐れているようことがあった。
「取り残されるようで怖い。忘れられた存在じゃないかと思うのが嫌なんです」
先に記したように、伝えられる多くの情報は華々しい、明るいニュースだ。実際、神戸一の繁華街である三宮駅周辺を歩けば、復旧した「そごう」がそびえたち、にぎわいを見せていた。
だからなおさら、気持ちの面で追い込まれてしまうのだ。
その頃、徐々に「孤独死」がクローズアップされ始めていた。
「まるで自殺するみたいに、酒を飲んでね。寂しかったんだと思うよ」
同じ境遇の人の死を、そう語る人もいた。
そうした日々の、わずかな慰めとなるものもあった。それは犬や猫がいることであったり、ときにラジオから聴こえてくる好きな曲だったりした。
そして、今でも忘れらない、こんな話をする人たちがいたのだ。
「マラソンで優勝した人がいたでしょ。その人、がんばって走って、今も大変な被災者の人の励みになれば、と言ってくれたでしょ。本当にうれしかったぁ」
「マラソン選手が、私たちを勇気付けるために走る、って言ってくれたんだ」
スポーツの世界で華やかに活躍する選手が、自分たちの存在に目を向けていてくれる……そんなちょっとした言動だけで、明日が見えにくい生活をしている人たちの心が一瞬温かくなる。スポーツを通してできることはやっぱりあったのだと、痛切に感じられた取材だった。
スポーツ選手には、被災者への思いを伝える貴重な手段がある。
このたびの震災では、膨大な数の行方不明の方々がいて、避難所で苦しい生活を送る人々がさらにその何倍もいる。
支援を、という声は当面止むことがなく、やがて復興も加速していくことだろう。すべての人が、速やかに復興の道を歩んでほしいと切に思う。
でも、14年前のように、復興の流れに乗り遅れる人がいるかもしれない、とも思うのだ。想像したくはないけれど、取り残されたような辛さを感じる人がきっと出てくるはずなのだ。
そして再び、神戸の仮設住宅に最後まで暮らしていた人々のように、スポーツを通しての誰かの温かい眼差しを励みとする人たちが出てくるのではないか。
そう……アスリートは、まだ彼らに心を寄せている人がいると伝えられる貴重な機会を持つ人間なのだ。