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野球のぼせもんBACK NUMBER
リチャード二軍落ち“当日”ソフトバンク番記者が目撃した衝撃の光景「帰宅中の山川穂高が口を開いて…」リチャード25歳の苦悩「途中で涙が出てきた」
text by

田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph byJIJI PRESS
posted2025/04/18 11:00

プロ8年目で初の開幕スタメン入りも無念の二軍落ちとなったリチャード25歳
素質は山川、村上宗隆より上
それをリチャードは約3か月間、逃げ出すことなく耐えて、耐えて、耐え抜いて、どんな練習も乗り越えてきた。何をやっても苦しかったというが、リチャードが強いて挙げたのは「見たこともない巨大なタイヤを引っ張る練習」だった。横倒しの巨大タイヤをまるで相撲を取るように抱え込むと、両腕だけでなく全身の力を振り絞って背中側へ引きずる。あれほどの怪力の持ち主でも数センチ動かすのがやっとなのだ。「なんか分かんないけど、途中で涙が出てきた」とその時のことを振り返る。
奥底に眠る能力が宝石級なのは間違いない。そうでなければ、ウエスタン・リーグとはいえ5年連続本塁打王にはなれない。山川も「日本だったら頂点。僕や村上(宗隆=ヤクルト)、岡本(和真=巨人)より上だし、長打力だけならばメジャーリーグで本塁打王をとれる。世界でも間違いなく通用する」と認めるほどだ。
驚きのデータもある。かのドジャース大谷翔平が昨シーズンに出した打球速度の最速は191.8km。対してリチャードも今春キャンプで191kmを記録しているのだ。パワーで大谷にまったく引けを取らないことがわかる。
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試合前練習のフリー打撃を見れば、そうしたリチャードの素質を表す言葉やデータにも合点がいく。
二軍落ちの日…球場で見た“光景”
みずほPayPayドームに設置されているホームランテラスなど無用だと言わんばかりの大きな放物線を左中間スタンドの中段より遥か上へと描く。推定飛距離135mといったところか。今度は弾丸ライナーをレフトスタンドに突き刺してみせる。引っ張り専門ではない。逆方向にもきっちり打ち返すと、その打球も再びライト側ホームランテラス奥の高さ5.8mもあるフェンスを軽々と超えていく。「ガコーン」。白球が緑の座席に着弾した衝突音がドーム内に繰り返し響き渡った。
こんな選手、他にはいないのだ。
その日は厳密に数えていなかったもののスイング全体の7~8割をホームランにしていた。それならば今度はきちんと数えてみようかな――そんな風に思っていた矢先でのファーム降格だった。
リチャードの二軍落ちが決まった夜。ドームから帰宅しようとしていた“師匠”の山川も、どこかやりきれない表情で口を開いた。
〈つづく〉
