アジアに野球を広める窓口に――「佐賀アジアドリームズ」の挑戦。

「アジアの宝物」と呼ばれた女性映画監督、ヤスミン・アフマドの遺作「タレンタイム～優しい歌」は、マレーシアを舞台に音楽コンクールに出場する少年、少女たちの織りなす友情や心の揺れを丹念に描き出した佳作である。

　この映画が単純な青春映画にとどまらないのは、マレーシアという国の独特な成り立ちがあるからに他ならない。多民族、多宗教が入り混じり、言語もマレー語、英語、タミル語に中国語と交錯する複雑な国情だ。そこから生まれる諍いも多く、その中で巻き起こる差別や、抑圧を背景に物語は静かに進んでいく。マレーシアという国を知らなければ、この作品が訴える様々な問題をなかなか理解できないということだ。