NumberPREMIER ExBACK NUMBER
「今後、スピードは求めません」DeNAのエース・東克樹が語った“捨てる勇気”「何でも聞いてください…後悔はしたくないですから」その理由とは?
posted2025/04/05 11:05

2023年に16勝、24年に13勝を挙げ、名実ともにエースと呼ばれる存在となった東
text by

村瀬秀信Hidenobu Murase
photograph by
Naoya Sanuki
発売中のNumber1117号に掲載の《[3年連続二桁勝利へ]東克樹「本物のエースになるために」》より内容を一部抜粋してお届けします。
「現状維持は退化と同じ」
エースに逆境はいきなり訪れた。
3月1日。今年初の対外試合となるオープン戦。先発の東克樹は開幕戦で当たる中日を相手に1イニングを投げて2失点。続く7日の阪神戦も3回途中4安打2四球4失点。昨年オフから改良に取り組んできた投球フォームがしっくりきていないようだった。
「このオフは短い時間の中にも、ぼんやりとすることなく課題を持って、やるべき明確なビジョンがありました。去年、一昨年と結果を残せたとしても、力が同じだったら今年結果を残せるとは限らない。2年間ローテで回っていると、どうしたって同じバッターとの対戦が増えてきますし、ボールに対しても慣れてくる。現状維持は退化と同じです。そのことを胸に、この先、自分の中でどう変化していくか。それを見越した上で改良することに踏み切りました」
ADVERTISEMENT
試行錯誤の末に作り上げられた、精密機械のようなバランスを持つフォームである。東が結果を出した2023年。勝つための武器を手に入れるため、リリースポイントを下げた。その結果、コマンド高く、キレ味鋭く、ゲームメイク能力が群を抜く、リーグを代表する勝てる投手になったが、スピードは140km台中盤。さらに昨年は平均球速が1.5kmほど落ちている。相手打者が東のボールに慣れ、研究してくる中で、ストレートの威力が上がれば押し込める。このオフに数値やデータを細かく見ながら、アームアングルやリリースポイント、着地足の位置などを改良していった。
「ひとつ変えられるとしたらスピード。この2年間、スピードの部分が落ちたので、それを戻す意識をしながら取り組んできました。ただ……キャンプ、オープン戦とやっていく中で、やっぱりスピードは求めるもんじゃないと思いました」
スピードを捨てる覚悟
東は初の対外試合となる中日戦の終了時点で、このオフに求めていたスピードを捨てる覚悟をしていた。
「今後、シーズンでもスピードは求めません。いらないわけじゃない。勝手に出ていればいいんです。意識してスピードを出そうと思えば出せるんですよ。だけどそれは練習用のピッチングであって、試合用のピッチングとはまた違うもの。ドラゴンズ戦で投げた感覚としては、スピードを意識すると、いろんなバランスが崩れてしまう。意識せず『気づいたら今日はスピード出ているね』くらいの感覚で投げるのが一番僕には合っている。実戦でそれがわかっただけでも収穫ですよね」