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「最後は気持ちの勝負になる」因縁のロッタンにONE 172で正面衝突する武尊が手に入れた強烈な武器。
posted2025/03/13 11:30

text by

布施鋼治Koji Fuse
photograph by
Hideki Sugiyama
熱く冷静に。
『ONE 172: TAKERU vs. RODTANG』(3月23日・さいたまスーパーアリーナ)で、ロッタン・ジットムアンノン(タイ)との大一番を控えた武尊は、相反するふたつの感情をうまくコントロールして闘おうとしている。
3月4日に都内で公開練習を行なったときも、そのバランスに腐心していた。
「早くから気持ちが高まりすぎると眠れなくなったりするので、そこは頑張って抑えるようにしています」
ONEは週1回のタイの定期戦を軸に、アメリカや中近東でも大会を開く格闘技プロモーション。その中身はキックボクシング、ムエタイ、MMA(総合格闘技)、グラップリングなど、格闘技と名のつくあらゆる競技を網羅している。以前はプロボクシングの世界タイトルマッチを組んだこともあった。
2024年1月28日には4年3カ月ぶりに日本開催。有明アリーナで王者スーパーレックに武尊が挑戦するキックボクシングのONE世界フライ級タイトルマッチが行なわれた。
試合は期待に違わぬ好勝負となり、3Rには武尊がスーパーレックをダウン寸前まで追い込む場面も。しかしながら序盤からローキックでダメージを与えていたスーパーレックが判定勝ちを収めた。試合後、武尊は筋断裂でしばらく通常歩行ができないほど大きなダメージを負っていた。
少なくとも昨年国内で行なわれたキックボクシングではこの一戦をベストバウトに推す声が多い。しかしながらこの大会で当初、武尊はロッタンと対戦する予定だったが、試合直前になってケガを理由にロッタンが欠場となったため、急遽スーパーレック戦が組まれた。今回は仕切り直しの一戦となるが、武尊は前回ロッタンのドタキャンで受けたショックを忘れていない。
「でも、(代わりに組まれた)スーパーレックとの一戦がタイトルマッチになったので、(ONEでの)デビュー戦としてはこれ以上ない舞台を用意していただいた。いい経験になったと思いますね」
ONEが漂わせる空気感はいつも「海外」
昨年9月27日にはタイ・バンコクのルンピニー・スタジアムで開催の定期戦『ONE Friday Fights 81』でタン・ジン(ミャンマー)と激突。1R左フックで先制のダウンを奪われたが、続く2R左の三日月蹴りをボディに突き刺しダウンさせ、そのまま逆転KO勝ちを収めた。
「(その前の日本大会も含め)ONEは空気感が海外なんですよ。気持ち的には乗りやすかったですね」
今回の舞台、さいたまスーパーアリーナはK-1やRIZINで何度も闘った、思い出深い会場だ。
「この会場では全勝(6戦全勝)でKO率も8割(5KO)くらいなので相性はいい」
しかしながらロッタンはスーパーレックに勝るとも劣らぬ強敵だ。日本ではキックボクサー時代の那須川天心を最も追い込んだ男として知られている。ファイトスタイルは獰猛という表現がピッタリと当てはまるほど、アグレッシブにガツガツと攻め込む戦法を得意とする。武尊と正面衝突するならば、KO決着しかないと予想されるのも頷ける。
──1Rからリミッターを外す?
「それはホント、相手の出方次第。ぶっちゃけこっちだけ外しても、たぶん気は合わない。狙えるところで狙っていこうと思います」
もちろんロッタン対策は立てているが、武尊はそれより重要視していることがある。
「自分の闘いにいかに巻き込むかというところをポイントとしてやっています」
武尊の援軍に現れた“井上尚弥第2の師”
最近ロッタンはファイターからテクニシャンに転向しつつあるという声もあるが、武尊は意に介さない。
「もともと何でもできる選手だと思っているので。それをわかったうえで僕は彼のファイターとしての部分を引き出したい」
──もちろんロッタンの一撃を被弾したときのことも想定している?
「僕は避けながら打つというより、もらいながら打つスタイル。ロッタン選手はなかなか倒れないイメージだけど、僕は過去にもそういう選手を倒してきている。自分のパンチには自信をもっていこうかなと思います」
そんな武尊に強力な援軍が現れた。“井上尚弥の第2の師”として知られ、現在はアマチュアボクシング日本代表の監督を務める須佐勝明氏だ。昨年1月のスーパーレック戦を見た須佐氏の方からアドバイスを授けたいという思いが募り、武尊にDMを送ったことがきっかけだった。
「それからパンチの質は明らかに変わりましたね」
──具体的にいうと?
「K-1のと違ってONEのグローブは結構パンチャーに不利なグローブなんですよ。(拳を保護する)クッションの部分が分厚いし握りにくいムエタイ式のグローブなんです。そういうグローブでも倒せるパンチを身につけたかったので、須佐さんに相談して打ち方もちょっと変えたりしました」
須佐から伝授された打ち方を実践することで、パンチの重さも明らかに変わったという。
「ボディを打たれても脳まで揺れるような感じです。練習で意識したらそういうパンチを打てるようになったけど、試合になるとまたちょっと違ってくるので、体に落とし込んでいる最中です」
「現役の最終章」と位置づけた一戦に挑む
今大会には武尊同様かつてK-1で王者として活躍した野杁正明とKANAがONEのタイトルに挑戦。さらにシュートボクシングの世界王者・海人やムエタイ五冠王の吉成名高も参戦するなど、立ち技のオールスター戦というべき顔ぶれが揃った。
大トリ(メインイベント)を務める武尊は第1試合からつながることが期待されている日本人ファイターの勝利タスキをかけ、「現役の最終章」と位置づけた一戦に挑むつもりだ。
「最後は我慢比べじゃないけど、気持ちの勝負になってくるでしょう。どっちもきついという状況の中で勝てる気持ちを出したい」
難敵ロッタンを倒し、日本キック界復興の狼煙を上げられるか。
「ONE 172:武尊VSロッタン」は3月23日(日)さいたまスーパーアリーナで開催。また大会の様子は「U-NEXT」で独占PPVライブ配信される。詳しくはONE 172公式サイトにて。
https://www.onefc.com/jp/events/one172/
