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箱根駅伝PRESSBACK NUMBER
箱根駅伝“史上最激戦の10区”四つ巴のシード争い舞台裏「4人が横一列に並ぶなんて…」選手が振り返る「テレビに映らなかった」超心理戦ウラ話
text by
山崎ダイDai Yamazaki
photograph byKiichi Matsumoto
posted2025/01/22 17:03
ゴール直前までもつれた4チームによるシード権争い。そのウラ側で各々の思惑はどのように交錯していたのだろうか
余力を残すために重要なのが、「風」と「路面」の影響だと大村は考えていた。
「10区は箱根駅伝では珍しく都心部を走る距離が長いので、ビル風をめちゃくちゃ受けるんです。あと、国道は結構、未舗装の所があったり、都市部の道路はアスファルトが固くて足への負担が大きい箇所もある。だからとにかく風を受けない位置で、路面の良いところを走るように意識していました」
それは、指導する小針旭人コーチが「自分で自分のことを良く理解しているランナー」と評する大村らしい、クールでクレバーな戦略だった。
道中で起きた様々な「駆け引き」
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ただ、実際のレース展開は想像していたよりも動きがあった。
「アップダウンが少ない区間とはいえ、もちろん小さな上り下りはあります。そういうところの下り坂を使って、順大の古川(達也、2年)選手と帝京大の小林(咲冴、1年)選手が結構、仕掛けてきたんですよね」
積極的な下級生たちの揺さぶりは、トータルで5、6回に及んだという。
だが大村の想定通り、結局そのいずれも「行き切る」ことができず、集団は崩れなかった。一瞬、差が開いても誰かが追いすがり、それを追って残りの2チームも追いついてしまう。そんな展開が幾度も繰り返された。
結果的に大村は、仕掛けで足を使うこともなく、集団を引くこともなく、想定通りに足を溜めながらレースを進めることができていた。
ただ、それでも心の中は安穏とはしていなかった。
「みんな余裕ありそうに見えましたから(笑)。小さな仕掛けも、『足を使っている』と考えられる反面、裏返せば『仕掛ける余裕があった』とも言えるわけで。強いて言えば東洋大の薄根(大河、2年)選手が、中盤から後半にかけて集団を引っ張っている時間が長かった分、一番余裕はなさそうに見えましたけど……それも表情だけだと分からないですから」
そして4校は、1チームも遅れることなく、大村が勝負と考えていた「ラスト3km」まで辿りついてしまった。
残り3km付近の日比谷・帝国劇場を過ぎ、馬場先門の交差点を右に曲がる。スピードを上げて道を曲がるのは難しいため、仕掛けるとしたら曲がった直後になる。
ところが、まだ誰も動かない。
その膠着状態は、鍛冶橋通りで京橋を左折して銀座中央通りに入っても変わらなかった。残りはもう1.5kmしかない。