箱根駅伝“史上最激戦の10区”四つ巴のシード争い舞台裏「4人が横一列に並ぶなんて…」選手が振り返る「テレビに映らなかった」超心理戦ウラ話 

　ここで、集団に異変が起きる。

「徐々にペースは上がり始めてはいたんです。でも誰も明確な仕掛けをしない。そのうちに4人とも牽制しあって……銀座中央通りで、横一列になったんです」

　およそ長距離競技で4人が横一列になって走ることなどない。まるで100m走のスタートのような横並びの状況の中、大村も焦れていた。

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「2人ならわかりますけど、4人で横に並ぶなんて駅伝じゃ普通は起き得ない。そこはドキドキしました。『これ、さすがに誰か行くんじゃないか』と……」

　だが――それでもなお、誰も動かない。

ラスト3kmでは4人による完全な「並走状態」になる瞬間もあったという　©AFLO

「本音を言えばこの時は、『誰も仕掛けないでくれ』と祈っていました。想定通りの展開だったとはいえ20km以上は走っているわけですから、ちょうどこのタイミングで足にダメージが来ていて。『ここで行かれたら正直、キツいぞ』と。もちろんそうなったらそれでもついていくしかないんですけど……」

　結果的に、4人はまたもとの形の集団に戻った。幸運にもそこで誰も仕掛けなかったことで、大村も少し足を休ませることができた。

ラスト1km…スパートの口火を切った選手は？

　そのまま4人は日本橋を通過し、最後の曲がり角を左折した。残りは約1km。

　この直前、監督車からの最後の声掛けがかかった。

　4チームの監督が順繰りに声をかけたが、他の3チームはその声にも反応しない。そして最後の4番目。中村勇太監督代行の「大村、あと1kmだ。ここで決まるぞ！」という声掛けが耳に入った。

　その声を合図に、大村は動いた。

「最後のカーブを曲がった瞬間に、一気にスパートをかけました。言ったように僕はラストのスプリント勝負にはしたくなかった。このままズルズルいってしまうと、ラスト決着になってしまう。だから、いくならもうここしかないと思ったんです」

他の3人は「みんな余裕があるように見えました」と振り返った大村　©Yuki Suenaga

　ロングスパートの場合、一概にペースを上げると言っても様々な種類がある。

　段階的に速度を上げて、相手の様子を見ながら振り落としていくケースもあれば、一気に最高速まで上げるパターンもある。この時の大村は、一気にフルスロットルに振り切った。

　ただ、これは一種の「賭け」でもあった。

　再三、大村が言ってきたように、仕掛けて後ろを一気に離しきれなければ、圧倒的についてきた後続が有利になる。かといって、ラストスパートの余力を残した加速では、振り切れない可能性が上がる。そのジレンマを抱えながら、大村はギャンブルに出たのだ。

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