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箱根駅伝PRESSBACK NUMBER
箱根駅伝“史上最激戦の10区”四つ巴のシード争い舞台裏「4人が横一列に並ぶなんて…」選手が振り返る「テレビに映らなかった」超心理戦ウラ話
text by
山崎ダイDai Yamazaki
photograph byKiichi Matsumoto
posted2025/01/22 17:03
ゴール直前までもつれた4チームによるシード権争い。そのウラ側で各々の思惑はどのように交錯していたのだろうか
結果的に見れば、大村はそのギャンブルに勝った。
「仕掛けてからチラッと後ろをみたら、思ったより離れてくれていて。『あ、みんな余裕そうだったのに結構、疲れていたんだな』と。こうなるともう逃げるしかない。あとはもう前を見て走るしかなかったです」
それでも、後ろから3チームが追ってくる恐怖は、常に頭の片隅にあった。
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10区の最後の直線は、とんでもない数の観客が歓声を送ってくれる。一方で、大村が「レース後には沿道側の耳が全然、聞こえなくなりました」というほどの大歓声は、後続の足音や気配をかき消してしまうデメリットもあった。
ゴールまでの距離が900m、800m……と少しずつ減っていく。だが、ゴールはなかなか見えてこない。
「ラスト500mくらいでJRの高架をくぐるんですけど、そこを越えるまでゴールが見えないんです。そこを越えたらもう、全部出し切るつもりでいました」
その高架を越えて、ようやく目指すゴールが目に入った。そこで大村が感じたのは、こんな率直な想いだったという
――遠い!
「思っていたよりゴールまで距離があって(笑)。でももうここまできたらあとは気持ちしかない。必死で身体を動かしました」
ゴール後は喜びよりも…?
ようやく大手町で仲間の待つゴールに8位で飛び込んだ大村の胸に最初に去来したのは、喜びよりも安堵の気持ちだったという。
「とにかくホッとしたのが大きかったです。シード権を死守できたことはすぐわかったので、嬉しいとかより、とにかく安心した。シードを取れるかどうかで、本当に翌年のチームには天と地の差がありますから……」
最終結果は9位に東洋大、10位に帝京大が入り、ここまでがシード権獲得。7秒差の11位に泣いた順大がシード権を失う結果となった。
100年以上の歴史を誇る箱根駅伝でも、史上まれに見る大激戦となった今年のシード権争い。仲間の命運も背負った、ヒリつくような“四つ巴”の大激戦は、ランナーとして楽しかったのか。それとも、二度と経験したくないものなのか。
そう聞くと、大村は苦笑しながらこう答えた。
「うーん……難しいですね。でも結局は圧倒的な実力があれば、あの状況でも楽しめるし、抜け出せる。何ならもっと前を追うことだってできた。だからもし、今度もああいう状況があるのなら、その時はラスト勝負ではなく自分で主導権を持ってレースができるような選手になりたいなとは思います」
殊勲の男は、どこまでもクレバーだった。