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「序盤→坂→下りで使う筋肉を切り替える」青学大・若林宏樹が明かす箱根駅伝“山の極意”…肉体もフォームも山専用に鍛えた「覚悟」とは
posted2025/01/17 11:00
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph by
JMPA
「インパクトが足りなかったのかなぁと思います」
若林宏樹(青学大4年)は、落ち着いた声でそう言った。
箱根駅伝5区区間新(69分11秒)を出し、青学大の往路優勝、総合優勝に貢献。「山の神」の領域に足を踏み入れていたが、惜しくも「4代目・山の神」には届かなかった。ただ、そう語る表情にはやり切った清々しさみたいなものが感じられた。
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それは彼が4年間、5区に全てを賭けてきたからだ。
山のための筋肉作り
若林は1年生の頃から「山の神」になりたいと思い、山で結果を出すことに注力してきた。1年の時は、5区3位(70分46秒)、2年目は走れず、3年時は区間新で2位(69分32秒)と徐々に順位もタイムも上げてきた。最終学年となった今季、神になるラストチャンスを掴むために取り組んだのは、身体作りだった。
「もともと山上りの素質はあったと思うので、さらに結果を出す上で必要だなと思ったのが、筋トレでした。一番重要だなと思ったのが大腿四頭筋です。これはいろんな選手を始め、神野(大地)さんからも話を聞き、青トレ(原晋監督と中野ジェームズ修一氏によるトレーニングメソッド)をやりながらしっかり鍛えていきました」
大腿四頭筋は、前腿の筋肉だ。そこが疲れてくると痙攣が起きたり、身体の軸がブレてしまい、安定性や推進力がある走りができなくなる。それは山を上るには致命的な欠点になる。
勾配によって使う筋肉も切り替える
その四頭筋をメインに、他の部分も強化した。若林は、序盤、坂、下りでそれぞれ異なる筋肉を使って走っていたからだ。
「自分は5区を走る際、全部の筋肉を使って動かすのではなく、部分的に動かすこともしています。基本的に5区の入りは臀筋を使って走り、宮ノ下からは四頭筋をメインにバンバン踏んで上り、下りに入ると骨盤を下げてふくらはぎを使ってトラックを走る感じに切り替えて走りました。山を走る上では、そういう筋肉の使い方の切り替えが大事です」
若林の走りで秀逸だったのは、他選手が「若林は下りが速い」と驚嘆した下りだ。5区は、小涌園から最高到達地点の4キロと下りの3キロで差が開くと言われている。実際、「山の神」の今井正人や神野大地はこの4キロで他選手と大きく差を広げていた。若林はそのエリアも速かったが、それ以上に下りが速く、それが2度の区間新に繋がった。