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「誇り」と「称号」どちらをとるか? 原田哲也、中野真矢、清成龍一、佐々木歩夢…日本人ライダーが正々堂々戦って敗れた歴史

posted2025/01/16 11:01

 
「誇り」と「称号」どちらをとるか? 原田哲也、中野真矢、清成龍一、佐々木歩夢…日本人ライダーが正々堂々戦って敗れた歴史<Number Web> photograph by Satoshi Endo

1998年の原田哲也(左)とロリス・カピロッシ。多くの日本人ファンがが悔しい思いをしたレースはいまだ記憶に新しい

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遠藤智

遠藤智Satoshi Endo

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Satoshi Endo

 僕がグランプリを転戦するようになった1990年以降、日本人ではこれまで6人の世界チャンピオンが誕生している。93年の原田哲也(250cc)、94年&98年の坂田和人(125cc)、95年&96年の青木治親(125cc)、2001年の加藤大治郎(250cc)、09年の青山博一(250cc)、そして昨年の小椋藍(Moto2)という顔ぶれだ。

 その35年の間には、あと一歩でタイトルを逃した選手たちもいる。正々堂々と戦い敗れた選手、そして、ライバルたちのダーティな戦い方に悔し涙を呑んだ選手たちだ。

 グランプリではチャンピオンの名前だけが語り継がれるものだが、ダーティな戦いでタイトルを手にした選手たちより、正々堂々の戦いで敗れた選手の方が強烈に印象に残ることが多い。少なくとも日本のレースファン、現場にいた僕には、決して忘れることができないレースがいくつかある。

ファンは知る「真の王者」

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 もっとも記憶に新しいのは、23年にMoto3クラスでチャンピオン争いを繰り広げた佐々木歩夢。タイトル争いが大詰めを迎えたカタールGPで、タイトルを争うライバルとそのチームメートの悪質な走路妨害でタイトル獲得のチャンスを逃した。

 步夢がタイトルを争ったのはスペイン人のハウメ・マシアで、シーズン2戦を残しタイトルを決めたいマシアと、最終戦にタイトル決定を持ち越したい步夢の一騎打ちに世界中のファンが注目した。しかし、マシアとチームメートのエイドリアン・フェルナンデスの二人が、トップグループの中で戦う步夢に対して強引に走路妨害を繰り返した。その走りはペナルティを科せられるべき悪どさで、步夢は表彰台に立てず、マシアにタイトルをさらわれた。

 このレースを映像で見ていた世界中のファンは、マシアとチームメートの所属するレオパード・レーシングに対してSNSなどで猛列にバッシング。「真のチャンピオンは步夢だ」と多くのメッセージが投稿された。そして迎えた最終戦バレンシアGPで、步夢は10万人を超える大観衆の前で見事に優勝を果たした。このレースはマシアにとってのホームGPでチャンピオン凱旋の舞台だったが、バレンシア・サーキットは步夢への拍手と声援に包まれた。

【次ページ】 勝利へのメンタリティ

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