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「誇り」と「称号」どちらをとるか? 原田哲也、中野真矢、清成龍一、佐々木歩夢…日本人ライダーが正々堂々戦って敗れた歴史
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遠藤智Satoshi Endo
photograph bySatoshi Endo
posted2025/01/16 11:01

1998年の原田哲也(左)とロリス・カピロッシ。多くの日本人ファンがが悔しい思いをしたレースはいまだ記憶に新しい
先日、步夢とカタールGPのことについて話す機会があった。步夢は「もう終わったことだから」ともう気にもとめていない様子だが、步夢の走りを支えてきたイギリス人のガールフレンド、メルさんについては「まだ怒っているよ」と笑う。僕もまだマシアとチームメートの愚行について怒っている一方で、彼らをかわいそうだとも思う。チャンピオンになるためにやってしまった愚行を一生忘れられないだろうからだ。
步夢のチャンピオン獲得をチーム一丸となって阻止したレオパード・レーシングは、24年シーズンにMoto2クラスで苦戦する步夢に「来年、Moto3に戻って、うちのチームで走らないか?」とオファーした。「よくも、そんなことが言えるものだ」と僕はあきれたが、レオパード・レーシングのボスは「我々はチャンピオンを獲るためなら、やれることはすべてやる。だから、步夢のタイトル獲得も全力でサポートする」と悪びれる様子もなく言ったと聞く。いざとなったら反則すれすれのことをやってのけるヨーロッパ人と、子どものころから「違反はいけない、反則はいけない」と教わり、あくまでもフェアに戦う日本人とのメンタルの違いを感じざるを得なかった。
勝利へのメンタリティ
それはライダー個人だけの問題ではなく、チームとしても同じことが言えると思う。その格好の例が、2010年にホンダから英国スーパーバイク選手権に出場していた清成龍一が最終戦でタイトルを決めたときのエピソードだ。清成はそのときドゥカティのライダーとタイトルを争っていたのだが、レース後、ドゥカティチームの監督が清成が乗るホンダのマシンにクレームをつけた。そのため正式発表は遅れたのだが、ホンダのマシンに違反はなく、清成のチャンピオンが確定。そのときのドゥカティチームの監督のコメントが印象深い。
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「我々がプロテストしたのは清成のマシンに疑いがあったわけではなく、もしかして何らかの違反が見つかれば彼は失格になり、我々がチャンピオンになれるからだ。私は監督としてやれることをやっただけ」
こういうクレームの付け方は、日本のメーカーチームなら絶対にしないだろうし、それはMotoGPでも変わらない。やはり、日本人とヨーロッパ人(ひとくくりにして申し訳ないが……)の考え方、メンタルの違いを感じる出来事だった。