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「シカだけに仕方ない」125ccタイトル目前に時速170キロで鹿と激突、「5人目の日本人王者」の称号を逃した東雅雄のその後の人生
posted2024/12/24 11:05
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph by
Satoshi Endo
「あの瞬間のことは鮮明に覚えてます。怖かったという意識は全然なくて、突然出てきたので、うわって感じだった。鹿の大きさ? そこそこ大きかったですね」
先日、サーキット秋ヶ瀬で久々に出会った東雅雄は、25年前の衝撃的な事故の記憶を生々しく語った。1999年に5人目の日本人王者になるはずだった東雅雄に降り掛かった災難である。
WGP参戦3年目を迎えていた東は、125ccクラスで開幕から3連勝を挙げるなど絶好調の滑り出し。シーズン前半9戦を終えた時点で5勝を挙げる快進撃を見せた。夏休み期間にチームの本拠地があるベルギーのリエージュに戻ると、「もうタイトルは獲ったも同然」とばかりにチームスタッフと祝杯を挙げるほど、王座はすでに手が届くところにあった。
いまなお語り草のレースアクシデント
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しかし、後半戦のスタートとなった第10戦チェコGPで、東は信じられないようなアクシデントに遭遇する。
土曜日の予選セッションで東はコース上に出てきた鹿と激突した。前方に投げ出された東は宙を飛んでコースサイドに倒れ込み、大破したマシンはコース上に散らばって原形をとどめない。突然の衝撃的な出来事にサーキット中が静まり返った。
事故はブルノ・サーキットのバックストレートで起きた。この時、コースインしたばかりの東は全開の走りではなかったが、それでも170km/hほどは出ていた。コースサイドにいる鹿を目視したが、直後にその鹿がコースを横切り、東は避けきれずに激突。その瞬間の映像は、いまでもレース関係者の間で語り草となっている。
ブルノのバックストレートは緩い上り坂。そのストレートエンドに設置されたテレビカメラが捉える映像には、通常ならストレートを駆け抜けてくるマシンが浮かびあがるように姿を見せる。だが突然、ミサイルが直撃したのだろうかと思うほど大破し、バラバラに砕け散るマシンが画面に映り込んだ。テレビの画面が切り替わると、そこには鹿が横たわり、コースサイドに横たわる東はピクリとも動かない。