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「えっ…この香車は何?」藤井聡太22歳が“AIに指せない勝負手”で評価値13%→99%「催眠術のよう」A級棋士・中村太地が解説で混乱した理由
posted2024/12/29 06:03
text by
中村太地Taichi Nakamura
photograph by
JIJI PRESS
八冠後も開拓を続ける藤井将棋…その原動力とは
藤井聡太竜王・名人(以下、藤井七冠もしくは各棋戦の称号)は2024年、八冠を独占した状態で2024年を迎えました。伊藤匠叡王にこそタイトルを奪われたものの、七冠を堅持。とてつもない偉業を成し遂げた後も相変わらずの強さ……はもちろんなのですが、戦型選択を振り返ると藤井七冠が常に変化を求めて、新しい挑戦をされているように感じていました。
これまでの藤井七冠は流行している戦型において、一番の課題とされている局面を突き詰めていくタイプだったのですが、2024年に入ってからはあまり注目されていない戦型を用いて戦うことがありました。具体的に言えば今年の叡王戦第2局や王座戦第1局で採用した「3三金型の角換わり」がそれにあたります。定跡があまり整備されておらず、開拓を意識されているのでは――と見ています。
なぜ藤井七冠が変化を求めているか。それはライバル棋士の準備・研究がさらに進化しており、相当ギリギリの戦いを強いられているからです。
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それでも最後には勝ちを手にする藤井竜王・名人の勝負強さに、ABEMA中継で解説者として立ち会う機会がありました。それは王座戦第3局と竜王戦第6局の計2局です。それぞれ永瀬拓矢九段と佐々木勇気八段が挑んだわけですが、対局途中までは、完全に2人がペースを握っていたんです。
解説をしていた私自身の心境を思い出しながら――まずは王座戦第3局(9月30日)から振り返っていきましょう。
香車!? ええっ…これは何だ?
藤井王座が連勝で迎えた本局は、じっくりとしたプロ好みの研究手で、じっくりとした展開ながら一手一手が非常に難しい中盤戦に。その中で永瀬九段が終盤にかけて一歩抜け出しました。永瀬九段の研究の深さは良く知られるところですが、じつは実戦で勝ちやすい形を求める巧みさも秀でていて、2つの長所を切り替えられるのが最大の強みと感じています。
本局も手堅い指し回しで持ち時間も残っていて、あとは相手玉を寄せるだけという状況に進んでいます。盤面を見るとよく分かるのですが、終盤の後手玉(藤井王座)は防御する駒がほぼいない状態でした。だから、きっと永瀬九段本人も手ごたえがあったと思いますし、解説をしながら〈永瀬九段なら勝ち切るだろうな〉と思っていたのが正直なところでした。
ただ……深く考えてみると、最後の一押しを見つけるのが難しい。そうこうしているうちに両者1分将棋に突入して、大きく局面が動く一手を藤井王座が放ちます。