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“羽生善治とパス交換”元サッカー日本代表FWが「“詰め将棋”でゴールの戦術眼トレ」、渡辺明は4級審判員…一流棋士・選手とも夢中な共通点
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph byJIJI PRESS/Yuki Suenaga
posted2024/11/26 06:00
W杯日本代表経験者の中村航輔と、通算タイトル31期の渡辺明。サッカーと将棋の両方を愛する、それぞれの代表格である
元日本代表FW北嶋秀朗(柏レイソルなど)は、ストライカーとしてゴールの戦術眼を鍛えるために、詰め将棋を解くなどイメージトレーニングで将棋を取り入れていた。私は『将棋世界』編集長だった2001年、羽生五冠と北嶋の対談を企画し、柏の本拠地の競技場を一緒に訪れた。羽生は小学生の頃に漫画『キャプテン翼』を読んで興味を持ち、学校で毎日のようにサッカーをして遊んだそうだ。
北嶋はディフェンスラインからゴールまでの流れを想定し、このケースでは右足にボールがほしいなど、練習でほかの選手たちと話し合うという。羽生は将棋でも各駒の連係が大事だと語った。対談と記念対局の後、羽生はピッチに出て久しぶりにボールを蹴って北嶋とパス交換した。羽生が「ゴールの間の距離はテレビで見るより近いですね」と言うと、北嶋は「調子が悪いときはキーパーが大きく見えます」と苦笑した。
歩を使っておびき出すようにパスを…
同じく元日本代表DF波戸康広(横浜F・マリノスなど)は、最初はフォワードだったが、経験のないディフェンダーに回されたとき、攻めのリスクケアを考えるのに将棋が役立ったという。
うまい選手ほど視野が広く、すぐにパスを出さずに一呼吸おく。将棋で歩を使って相手をおびき出す手法に近いようだ。波戸は2014年1月の引退試合の日に、将棋の普及に貢献したとして、将棋連盟から「将棋親善大使」に任命された。15年7月の試合前イベントで、郷田真隆王将と飛車落ちの手合いで対局したときは、和服を着用して見事に勝った。
なお現役でも中村航輔(ポルティモネンセ)、小泉佳穂(浦和レッズ)といった選手が将棋を愛好しているという。特に中村はNumberWebで実施した中村太地六段との対談などで『将棋ウォーズ』を1日で何度も指したことがあると明かした。
渡辺明は4級審判員の資格…小学生の試合を
棋士たちのサッカーチームもある。その名称は「ケセラセラ」。初代監督を深浦康市九段が務めた。ドイツの交響楽団が来日したときは、東京・北区の西が丘サッカー場でサッカーの親善試合を行った。ヨーロッパではサッカーを通した各界の交流はよくあるという。
今期の将棋日本シリーズで優勝した渡辺明九段は、海外のサッカーの試合をよく見ている。自身も4級審判員の資格を持っていて、小学生の試合で審判を務めることがある。
棋士のサッカー(フットサル)愛好者は、ほかに広瀬章人九段、中村太地八段、佐々木勇気八段など。
中でも野月浩貴八段はかなり熱心だ。将棋の駒の産地で有名な山形県天童市に本拠地があるモンテディオ山形とは、将棋とサッカーのコラボイベントを何回も企画して好評である。
札幌出身の野月は、北海道コンサドーレ札幌のサポーターで、全国各地に出かけてほぼすべての試合を応援している。同じ北海道出身で今年1月に野月と結婚した渡部愛女流三段も同行するそうで、新婚旅行を繰り返しているみたいだ。
以上のエピソードのように、将棋(棋士)とサッカーは何かと関連が多い。