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那須川天心「批判する人も多くて…」タイトル獲得も賛否両論…苦戦の理由とは? じつは認めていた“経験不足”「練習通りにはなかなかいかない」
posted2024/10/18 17:34

ジェルウィン・アシロ(右)に判定3-0で勝利し、WBOアジアパシフィック王者となった那須川天心。大方の予想以上に「苦戦」した理由とは
text by

布施鋼治Koji Fuse
photograph by
Naoki Fukuda
ごく率直に表現するのなら、那須川天心は苦戦した。
10月14日、『Prime Video BOXING 10』DAY2のセミファイナルで行われたジェルウィン・アシロとのWBOアジアパシフィック・バンタム級王座決定戦。ふたりのジャッジが7ポイント差、もうひとりのジャッジが5ポイント差をつける3-0のユナニマス・デシジョンだったが、ポイント差以上に天心はもがき苦しんだ。
苦戦の要因は?「噛ませ犬」ではなかったアシロ
いったい何が原因だったのか。
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ひとつはアシロが「想像以上にうまかった」ことがあげられる。天心のキーパンチである左ストレートをヒラリヒラリとかわしたうえで、カウンターを再三見舞っていたのだ。
7月のジョナサン・ロドリゲス戦で、天心は自ら先に動いて相手に反応させたうえで右ジャブや左ストレートを決めるという進化を見せていた。ところがアマチュアボクシングで200戦以上のキャリアを持つアシロは天心の誘いに乗らず、お互い「お前から先に打ってこい」とでも言いたげな展開になった。ロドリゲス戦が“後の先”だったならば、今回はともに“後の後”。そうなれば、なかなか試合が動くはずもなかった。
天心のアタックをかわし続けるアシロの姿を見て、筆者は自分の予想を恥じた。前日計量で見た限り、アシロは天心の踏み台になる相手としか思えなかったからだ。
バンタム級リミットの53.5kgまで落とした天心の眼光は鋭く、無駄な脂肪を削ぎ落とした全身からは近寄りがたい殺気すら漂わせていた。対照的にアシロは温和な面持ちで計量会場に姿を現し、フレーム(骨格)は数値以上に小さく見えた。少なくともこの時点では、早いラウンドでの天心のKO勝ちを予想した者も多かったのではないか。
見た目やデータだけではわからない。ボクシングはリング上で起こったことが全てだ。結果的に、このフィリピン人ボクサーは、天心が地域王座を獲得するために用意された「噛ませ犬」ではなかった。
付け加えるなら、天心の攻め筋もやや単調なきらいはあった。特に序盤の4ラウンドまではボディへのパンチがあまり見られず、ジャブからの左ストレートというワンパターンのボクシングになっていた。いかに一級品のスピードを持つ天心といえども、上下に打ち分けるパンチのバリエーションがなければ守備に比重を置いた相手を崩すのは難しい。