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大荒れの日本GPで2位獲得、小椋藍の「スリック選択」はギャンブルにあらず…快走を演出したチーフメカニックの言葉とは
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph bySatoshi Endo
posted2024/10/07 17:30
日本GPを2位でフィニッシュし、加藤大治郎も掲げた日章旗とともにサーキットを一周する小椋
再開後のレースグリッドにつくとき、ガルシアのマシンにレインタイヤが装着されていることに驚いたという小椋にとっては、勝ちにいくための当然の判断に過ぎなかったのだ。
結果的にスリックを選んだ6選手が上位6位までを独占する。小椋は9番手グリッドからオープニングラップ14番手までポジションを落としたが、2周目以降一気にペースを上げて3周目にトップに浮上した。だが、残り4週でやはりスリックを選択していた伏兵マニュエル・ゴンザレスに先行を許し、そこからは無理に追いかけず2位表彰台を獲得した。
予選14番手から追い上げ、見事に初優勝を遂げたマニュエル・ゴンザレスはこうコメントした。
「ピットレーンを出たときコースは濡れていたが、昨日も同じようなコンディションになってすぐに乾いたので、スリックタイヤで行こうと思った。とにかく、インからアウトからバンバン抜けたし、とても楽しかった。まるでビデオゲームをしているような気分だった。そして最終ラップはすごく長く感じたけれど、落ち着いて、ミスをしないように走った。本当に素晴らしい気分だった。今日は自分の手で運命を切り開くことができたような気持ち」
レインタイヤを選択したライダーたちは厳しい結果に終わった。小椋とタイトル争いをするセルジオ・ガルシアは14位。前戦インドネシアGPで優勝した総合3位のアロン・カネットは16位。総合4位だったアロンソ・ロペスは9位。終わってみれば、今季7回目の表彰台に立った小椋が念願のタイトル獲得に大きく前進することになった。
名ライダーの影に名メカニックあり
この日、Moto2クラスのチェッカーフラッグを振ったのは、故加藤大治郎さんの長男・一晃さんだった。長女・ 凛香さんは大ちゃんが世界チャンピオンになったときに掲げた日章旗をコースサイドで小椋に手渡した。その「大ちゃんフラッグ」でコースを一周するのはこれが3回目。今回もまた、大ちゃんフラッグにお礼の仕草をしているのが印象に残った。
思えば、大ちゃんにもファブリツィオ・チェッキーニという名チーフメカニックがいた。大ちゃんは、ファブリツィオのことを「自分が困ったときにいつも決断してくれる。背中を押してくれる人」とコメントしていた。今大会、小椋と長くコンビを組んでいるノーマンがスリックを選択、その判断を信じた小椋のエピソードは、大ちゃんの言葉にオーバーラップするものだった。