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大荒れの日本GPで2位獲得、小椋藍の「スリック選択」はギャンブルにあらず…快走を演出したチーフメカニックの言葉とは

posted2024/10/07 17:30

 
大荒れの日本GPで2位獲得、小椋藍の「スリック選択」はギャンブルにあらず…快走を演出したチーフメカニックの言葉とは<Number Web> photograph by Satoshi Endo

日本GPを2位でフィニッシュし、加藤大治郎も掲げた日章旗とともにサーキットを一周する小椋

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遠藤智

遠藤智Satoshi Endo

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 Moto2クラスで総合首位。2位に42点以上の差をつけて第16戦日本GPを迎えた小椋藍が決勝レースで2位になり、その差を60点へと広げた。残りは4戦。次戦オーストラリアGPで2位に76点以上のリードを築けば、グランプリフル参戦6年目にして念願のタイトル獲得となる。

 決勝レースは不安定な天候により、タイヤ選択が勝敗に大きく影響する大荒れの展開となった。12時15分に19周でスタートが切られたとき、雨はポツポツと落ちていたが路面はドライコンディション。しかしスタート直後、オープニングラップのコース中程で本降りとなりライダーたちは手を上げてスローダウン。12時18分に赤旗中断となり、12時20分には天候の変化による赤旗中断のない「Wet」宣言がでた。レースは12周に短縮され、12時30分に再スタートが切られることになった。

小椋の決断の根拠

 再スタート前も小雨が降り続いたが、赤旗中断になったときのような降りではなく、選手たちはスリックかレインかとタイヤ選択に悩んだ。小椋もそのひとりだったが、選択したのはスリックだった。その決断を小椋はこう振り返る。

「何が正解かわからなかったが、ノーマン(・ランク/チーフメカニック)の言葉を信じることにした」

 金曜、土曜とモビリティリゾートもてぎは雲が多く、断続的に小雨が降る難しいコンディションだった。しかし、レインタイヤで走行するほどのコンディションにはならなかった。一度だけ土曜日の予選中にやや強い雨が降り、タイムアタックできない状況になった。そのため、ポールポジションを期待された小椋は9番手に終わっていたが、このとき小椋はピットに戻ることなく、小雨が降り続く中、スリックで走行を続けた。このときの経験が決勝レースで生きることになるのだ。

 スリックタイヤを選択した小椋は、ウォームアップ走行中に何度も足を出して路面コンディションを確認する。ブーツの底に感じるフィーリングは悪くはなく「1周目、2周目に気をつければいける」と自信を持った。もちろん、再び雨足が強くなればレインタイヤ選択組が有利になるが、スリックを選択した小椋には運も味方することになった。

 勝負の定石で言えば、チャンピオン争いをしている場合、特に総合首位をキープしている小椋がギャンブルする必要はない。ライバルたちと同じタイヤを選択、同じ条件で戦えば、大きなアドバンテージを築くことはできなくとも、大きくポイントを縮められることもない。あえてスリックという選択は、結果的に少数派だったことからギャンブルしたように見えるが、小椋にもチーフメカニックにもそんな気持ちはまったくなかった。

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#小椋藍

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