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ノンフィクションが売れない? 鈴木忠平と森合正範が語る”書き手の本音”「売れるということ」、そして「編集者に求めるものは…」
text by
NumberWeb編集部Sports Graphic Number Web
photograph byWataru Sato
posted2024/10/10 17:03
『いまだ成らず 羽生善治の譜』鈴木忠平氏(左)と『怪物に出会った日 井上尚弥と戦うということ』森合正範氏の対談。お互いの著作を交換して手に持って撮影
森合 次に書くことは決まっていまして。ようやく決まったというか、自分の中で『怪物に出会った日』を書き終えてやり切ったと言ったらおかしいですけど、初めて書き切ったという気持ちになれたんですよ。そこからなかなか次に向かわなかったんですけど、ようやく次へという気持ちになりまして。それは自分の体験なんですけど、アルバイトをしていた後楽園ホールを舞台にしたノンフィクションを書きたいなと。今、当時一緒にアルバイトをしていた人たちを訪ねて、いろんなとこに行ってます。
鈴木 それはボクサーが主役ということではなくて?
森合 各章の主役は一緒に働いていた人たちになるかもしれないです。まだ自分の中でわかってなくて、今度も盛岡まで行ってくるんですけど、みんなの話を聞いてどうしようかなと考えてます。だけど、先入観を持たず、各章の主役は、一緒にアルバイトした人たちなのか、彼らが見たボクサーになるのか、プロレスラーになるのか、そのときの事象になるのか、わからないです。今はもうひたすらいろんな人に会って材料を集めて、当時を思い出している。
鈴木 アルバイトされていた時に、名勝負もたくさんあったわけですよね。
森合 はい、そういうのと、一般の人たちなんですけど彼らの生きてきた道のり。一緒に過ごした人たちが、あの頃どう思って、今どうなってるのかも書けたらいいかなと思っています。ただ、それが読まれるかがわかんなくて。
作家として「売れる」ことについて
――まさに僕が聞こうとしたことと重なるんですが、今、ノンフィクションがなかなか売れない、ヒットしないと言われてる中で、鈴木さんの『嫌われた監督』と森合さんの『怪物に出会った日』は内容と読者に届くということが両立した本だと思います。今、森合さんが、後楽園ホールを主題にしたときに、売れるかどうか、人に読んでもらえるかどうかわからないとおっしゃっていました。今まで書き手としてのお話を伺ってきましたけど、売れる、作家として経済を成り立たせるということとどう向き合ってらっしゃいますか?
鈴木 新聞社にいた頃も、辞めて「Number」編集部で書いてた時も、あまり売れるとか売れないとか考えたことがなくて。考えなくていい環境にいて。ただ、「Number」編集部に移って、何年かした時ですかね、やっぱり売れなきゃ意味ないなって思うようになって。極端な言葉なので語弊を生むかもしれないですけど、どういう意味かと言うと、結局どんなに素晴らしい芸術品でも倉庫に眠ってたら意味がない。誰にも伝わらない、誰にもわかってもらえない。だから売れるということは伝わるということだから、書き手の衝動ってこんなに面白い対象がいて、それを自分で留めておけずに誰かに伝えたいから、書くわけじゃないですか。最も正しくそれを計れるのが売れるということだと思うんです。「Number」を独立するちょっと前ぐらいから、そういうことを意識するようになって。だから僕が心がけているのは、「誰もが知ってる人や事象の誰も知らない側面を書く」。なぜなら、それが最も人間が知りたいことだから。稀に、いろんな作品見ていると、無名の人であっても、誰も知らない人や事象の誰にでも共通する部分に社会性、一般性、共感力があれば、波及していくんだなということも考える。だから、 僕は売れなきゃダメだと思うし、それが達成できてるかどうか、まだ道半ばですけど、そのためにどうすればいいかは考えます。
読んでもらうためには推進力がないと
――森合さんは現役の新聞記者でもありますが、やっぱり売れなきゃいけないと思っています?