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“格下の高校生”だった井上尚弥に敗北「試合後、初めて泣きました」後の世界王者たちを撃破“アマ最強ボクサー”は高校教師に…柏崎刀翔の壮絶人生
posted2024/10/11 11:42
text by
森合正範Masanori Moriai
photograph by
Naoki Fukuda
「俺の時代が終わる」“格下の高校生”に敗れて流した涙
あれからもう14年になろうとしている。勝っても、負けても感情を表に出すことはなかった。だが、あの日、日本大学2年の柏崎刀翔は感情を抑えきれなかった。3歳下で高校2年の井上尚弥に負けた。しかも全日本選手権の準決勝という大舞台で。「高校生に負けたら屈辱」。そんな重圧を感じる雰囲気が会場を包んでいた。試合が終わり、体育館でシャワーを浴びる。涙があふれてきた。ただただ涙が流れてきた。
「試合後、初めて泣きました。勝てると思っていたのに、格下の高校生に負けた。俺の時代が終わる。いや、実際はまだチャンピオンになっていないのに、終わる。これだけ練習をやり込んで負けたら、次どう頑張ればいいんだ……。そんな思いでした」
夏休みで誰もいない高校の図書室で少しはにかみながら、当時の心情をそう言い表した。福井駅から車で10分ほどの住宅街にある福井・羽水高校。柏崎はそこで2年生の担任教師とボクシング部の顧問を務めている。
移り変わりが激しくハイレベルなアマチュアのトップ戦線で10年以上闘ってきた。のちに軽量級のチャンピオンとなる猛者たちの青春時代、必ず柏崎が立ちはだかった。井上と3度闘い、寺地拳四朗と京口紘人には2戦2勝。岩田翔吉、桑原拓、重岡優大からも勝利を収めている。
「一応長い間、全日本でずっと4強(以上)だったんですけど、山を登ったらもっと先にも山があって、みたいな感じでした。闘いはなかなか終わらなかったですね」
ようやく登ったと思ったらそこは頂上ではなかった。またすぐに別の高い山が見えてくる。そんなボクシング人生だった。