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「自分を押し付けすぎていた場面があったんだと」あの“リード批判”騒動、海外での武者修行も経て…楽天・早川隆久が語った「覚醒の理由」
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byJIJI PRESS
posted2024/09/30 11:04
今季11勝を挙げ、楽天のエース格に成長した4年目の早川隆久。春にあった“ある騒動”を経て、コミュニケーションの重要性を学んだという
一連の騒動はいわば、早川が実直すぎる故に生じた誤解でもあった。それでも本人は、状況に目を背けずに口を開く。
「オーストラリアでの経験からいい意味で自分を出せていたところがありながら、それが逆にコミュニケーション不足となってしまったところが反省で。今、振り返ると、配球面とか自分を押し付けすぎていた場面があったんだと思っています」
西武戦での波紋を重く受け止めた早川は翌日に太田へ謝罪し、互いの意見を理解し合って和解した。次の登板である5月3日のロッテ戦。太田とのバッテリーで9回1失点の完投で勝利し、ともに上がったお立ち台で、早川が「お騒がせしてすみません」とファンに頭を下げ、一件落着となった。
騒動で感じた「コミュニケーションの大切さ」
雨降って地固まる。結果的にこの出来事は、早川を脱皮させる大きな分岐点となった。
「あれが本当にキーだったというか。太田さんと会話が増えましたし、お互いの不安を解消させた上でフィールドに立てるようになりました。コミュニケーションの大切さというものを改めて感じています」
早川と太田はとにかく言葉を交わす。試合前、試合後はもちろん、試合中であろうとマウンドからベンチへ戻る短い間に、互いの考えを擦り合わせるようになった。
それだけではない。コミュニケーションの重要性を頭と体に沁み込ませた早川は、普段は接する機会の少ない野手とも積極的に会話するようになっている。
外角低めの変化球にもしぶとく食らいつき、逆方向へヒットを放てる村林一輝。あらゆる方向へ的確にバントし、きわどいコースをファウルで対処できる器用さのある小深田大翔。早川が苦手とするタイプのバッターに、「どういう配球が嫌ですかね?」と意見を求めることで、ピッチングのバリエーションも増えているのだと会心の表情を見せる。
「野手ともコミュニケーションを取ることで、バッター心理がよりわかるようになったというか、新たな引出しを見つけられるようになったことも大きいと思います」
他の選手とのコミュニケーションの成果をマウンドで体現できるようになった早川は、楽天の左腕で初の2桁勝利に到達した。クライマックスシリーズへの進出を懸け、ロッテと熾烈な争いを展開するチームにおいて、早川の快投は必要不可欠となる。
和を以て貴しと為す。
ちょっとした受難から宿した精神は、今や早川の勝利のカギとなっている。