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ゆりやん、唐田えりか熱演『極悪女王』で思い出す…“1984年伝説の青春ドラマ”「応募3500人、北斗晶が入門決意」「鬼コーチ役は和田アキ子」
text by
高木圭介Keisuke Takagi
photograph byTakuya Sugiyama
posted2024/09/26 11:03
Netflix『極悪女王』で主演を務めたゆりやんレトリィバァ。配信記念イベントでは、演じたダンプ松本を彷彿とさせる表情で作品をアピールした
そんな40年前とは女子プロレス界もすっかり様変わりした。まず当時は国内に全女1団体しか存在しなかったため、当時は「全女を辞める=女子プロレス廃業」という選択肢しかなかった。団体側が定めたルールに従うしか、女子プロレスラーであり続ける道はなかったのである。
そんな環境で生まれた全女独自のルールが「25歳定年制」と「三禁(酒・タバコ・男)」だった。ジャガー横田(86年2月)もデビル雅美(87年12月)も長与千種(89年5月)もライオネス飛鳥(89年8月)も皆、25歳前後で一度は引退していった。86年に第2の団体「ジャパン女子プロレス」が誕生したことで、往年の大スターであったジャッキー佐藤やナンシー久美が現役復帰。以降も生まれては消えていく団体の中で、25歳で定年引退した女子選手がリング復帰する受け皿ともなってきた。
極悪~の劇中、新人たちに向かってジャッキー佐藤(演・鴨志田媛夢)が言い放つ「会社をねじ伏せられる唯一の方法……スターになることだよ」という印象的なセリフがある。それを体現するかのように25歳定年制度を破壊したのが、ブル中野や北斗晶だった。ブルは93年1月に、北斗は92年7月にそれぞれ25歳の誕生日を迎えていたが、選手として実力、人気のピーク時とあり、会社としても競合他社である他団体移籍をあえて促すような引退を勧告することなどできない。まして94年11月20日には全女として最初で最後となった大一番・東京ドーム大会を控えており、最大のスター選手を失うことはできないという事情もあった。
そんなわけで25歳定年制はうやむやとなり、95年には新日本プロレスの北朝鮮大会で出会った北斗晶と佐々木健介が正式に結婚することとなり、三禁のうち「男」までもが徐々に崩れてきたのだった。
「残酷だから面白えんだよ」
各プロモーション、各選手が「ハッピーな空間」を提供しようと努力している現状を否定する気は毛頭ないが、極悪~の劇中、松永高司会長(演・村上淳)が口にする「プロレスってのは残酷なモンでさ。残酷だから面白えんだよ」のセリフが妙に胸に突き刺さってくる。
40年前の『輝きたいの』がそうであったように、『極悪女王』に影響を受けて、女子プロレスを志願する少女たちが誕生することだろう。世界中に配信されるNetflix作品の性質上、その影響は日本国内に留まらない。数十年後、この作品が誕生したことによって変化する女子プロレス界の未来が楽しみだ。