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大瀬良大地「まだ俺もいるよ」エースの称号を譲ってなお過去最高防御率1.46の快投を続ける11年目右腕の進化の要因
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byJIJI PRESS
posted2024/09/11 11:04
ここまで防御率1.46の快投を続けている大瀬良。自己最多の15勝を挙げた2018年でさえ、防御率は2.62だった
次の登板となった4月11日の阪神戦で、大瀬良は7回を零封して1−0の勝利に貢献。會澤はこの試合を転機と語る。そしてこの試合の投球は、大瀬良にとっても新たな出発点となった。
「自分の中ではどうなるのか、という興味があった。ただ、結果的にも良かったので、これでいいんだと思えた」
その後、勝ち星には恵まれなかったものの、防御率は0点台を維持した。5回目の登板となった5月8日の阪神戦で今季初勝利を挙げると、6月7日のロッテ戦ではノーヒットノーランを達成。27アウトのうち、三振で奪ったアウトはわずか2個だった。追求してきた投球が正しかったことを大記録で証明してみせた。
投手の高速化に逆行するように、直球の速度を140キロ台後半ではなく140キロ台半ばに抑え、精度を高めた。直球の最速が上がらなくても、不器用ながら磨いてきた他の球種の球速を落として、緩急で打者を惑わせることができる。たとえばシュートは今季序盤の時点では精度が悪かったが、會澤が根気強く要求し、大瀬良も首を振らずに投げ続けてきたことで新たな武器となっていった。
11年目の矜持
ここまで奪三振数82個で、奪三振率も5.44にとどまる。奪三振率5割台はオフにクリーニング手術を行った20年以来の低水準。不本意なシーズンとなった昨季でも7.15だった。それなのに、被打率は中継ぎに転向した16年以来の1割台となる.197と、リーグ2位(規定投球回到達投手)の成績を残す。被本塁打も3本と2番目に少ない。
広島先発陣の中心は今や床田と森下暢仁の2枚看板だろう。新たな「エース」を競い合っている両者の実力は大瀬良も認めている。ただ「看板」の座を譲っても、投手としての矜持は持ち続ける。
「まだ俺もいるよというところを見せたいですね。縁の下の力持ち的な役割もいいけど、ちょっとくらい日の目を見る登板があってもいいかなと。投手としてはそういう気持ちを持っていないと成長がないと思うので、しっかりとやりたい」
昨季の終盤は自分の立場を主張できる状態になかったが、今季は1度も出場選手登録を外れることなく、納得のいく登板を重ねてきた。リーグ優勝がかかった最終盤の戦いで、大瀬良は13日の阪神戦、そして21日、28日と2週続く巨人戦での先発が見込まれる。チームを背負って投げるマウンドでこそ、大瀬良の真価が試される。