炎の一筆入魂BACK NUMBER
「今だけを見ていないから」若手を育てつつリーグ優勝を射程圏内に収めた、カープ新井貴浩監督の胆力
posted2024/08/26 11:01
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
Hideki Sugiyama
「二兎を追う者は一兎をも得ず」と言われるが、広島の新井貴浩監督は今、二兎を得ようとしている。ひとつは6年ぶりのリーグ制覇。そしてもうひとつは、若手の育成にある。
例年にない混戦となったセ・リーグのペナントレースで、8月14日まで巨人、阪神、DeNAと続いた9連戦は、広島にとってひとつのヤマ場とみられていた。巨人が山崎伊織やグリフィンといった主戦投手の登板間隔を詰める中、新井監督は9連戦で8人の先発投手を起用する大胆な采配を見せた。今季チームを牽引してきた床田寛樹、森下暢仁、大瀬良大地、九里亜蓮の先発4本柱の間隔を空け、登板はいずれもカード2戦目以降。カード初戦は若手に託した。
巨人3連戦の初戦でアドゥワ誠が完封すると、続く阪神3連戦の初戦には今季初先発となる森翔平を立て、3年目左腕は5回1失点で起用に応えた。最後のDeNA3連戦の初戦では、玉村昇悟が大量援護を背にプロ2度目の完投勝利。若手先発陣で3カードすべての初戦を獲り、夏場の9連戦を5勝3敗1分で乗り切った。
「勝負はまだ先にある。森もずっといい投球をしていたし、どこかでチャンスを与えたいと思っていた」
黒田博樹球団アドバイザーを迎え、一軍、二軍で密に連携をとってきた投手運用が、シーズン終盤の勝負どころで見事なまでに機能している。
投手陣を支える3本柱
特筆すべきは、今季ローテーションの軸として活躍する3投手の安定感が5番手以降の若手先発投手を支えていること。すでに10勝を挙げている床田と森下はもちろん、勝ち星が5にとどまる大瀬良も貢献度は高い。それはデータが証明する(データは8月24日時点。以下同様)。
◆登板日のチーム戦績(カッコ内は個人成績)
床田 12勝7敗1分(10勝5敗)
森下 10勝7敗(10勝4敗)
大瀬良 13勝4敗2分(5勝3敗)
3投手の登板日は35勝18敗3分で、彼らが作った貯金はチームの貯金14に大いに貢献している。また、3投手はこれまでそれぞれ2度、チームの連敗を止めてきた。優勝争いにおいて大型連敗しないことが鉄則とされる中、チームは7月27〜28日の2連敗を最後に連敗していない。彼らの存在がほかの先発投手の精神的負担を減らしているのは間違いない。