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大瀬良大地「まだ俺もいるよ」エースの称号を譲ってなお過去最高防御率1.46の快投を続ける11年目右腕の進化の要因
posted2024/09/11 11:04
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
JIJI PRESS
セ・リーグのペナントレースは終盤に入っても混戦模様のままで、各球団とも今季の戦いの真価が問われている。残りは20試合前後。6年ぶりの優勝を目指す広島にとって、10日からの3連戦を含め、巨人との直接対決が持つ意味は大きい。
残る直接対決は5試合(データは9月10日時点。以下同様)。広島はチームの勝ち頭である床田寛樹とともに、今季復活を遂げた大瀬良大地をそれぞれ2試合先発させる見込みだ。
大瀬良にとっては自らの存在意義を示す登板でもある。初回に2本のホームランを浴びて3失点した前回登板の中日戦(9月6日)からの巻き返しだけではない。昨季まで2シーズン続けて一桁勝利に終わり、チームの力になれなかった悔恨の念を晴らすチャンスと捉えている。
「もうだいぶ前から自分のために投げている感覚はない。チームのためになれば」
2016年に黒田博樹(現・球団アドバイザー)が引退した後、こだわり続けた「エース」という称号にも執着しなくなった。FA権を行使せずに広島残留を決めた21年頃から、チームのためだけに右腕を振ってきた。ここ数年はケガの影響で納得のいく投球ができなかったが、あがく姿を見せることも使命と悟った。
だが、投手の本能は満たされなかった。22年は前半戦まで7勝を挙げながら、後半戦は負傷離脱もあり勝ち星を伸ばせず、チームも順位を落としていった。昨季は右肘の痛みを抱えながら、限界点に達したら手術に踏み切ると決断し、“片道切符”で腕を振った。結局、シーズン最後まで投げ続け、CSファイナルステージでは日本一となった阪神相手に7回3安打1失点(自責ゼロ)の快投を見せた。
オフに行った右肘クリーニング手術前の検査では、夏頃から一部の骨が折れていたことも分かった。気力が体力を上回ったシーズンだった。
會澤が明かす復活の理由
今季は完全復活を印象づける。肩肘への不安が消え、苦しんだシーズンでもがいた分だけ、フォームや持ち球の精度も上がった。6勝4敗と勝ち星こそ伸びていないものの、8月中旬まで0点台をキープした防御率はリーグ2位の1.46。自身が登板した試合は14勝5敗2分けと、チームに9つの貯金をもたらしている。
今季すべての登板試合でバッテリーを組む會澤翼は復活の要因をこう明かす。
「あまり言いたくないけど、三振を取りに行こうとしなくなったことだと思います」
今季初登板だった4月4日のヤクルト戦、6回途中までに3失点したことで2人は変化を求めた。直球と得意球のカットボールで押すそれまでのスタイルから、シュートやフォークの割合を増やした。さらに球速や球威ではなく、球の切れと制球を求めた。