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プロ通算2700安打超…“希代のヒットメイカー”青木宣親がこだわる「数字」とは? “熱烈なヤクルトファン”尾崎世界観との対話で明かしたこと
text by
青木宣親×尾崎世界観Norichika Aaoki & Sekaikan Ozaki
photograph byMiki Fukano
posted2024/09/12 11:05
偉大なヒットメイカー・ヤクルトの青木宣親(左)と大のスワローズファンでミュージシャン・作家の尾崎世界観の異色対話『青木世界観』が実現した
常に自分の打球速度やスイングスピードをチェックしている選手もいるし、ピッチャーは特に、何千回転しているとか、ボールの軸がどうなっているとかよく調べている。実際にラプソード(データを測定・分析できるポータブルトラッキングシステム)を自分で購入して、キャンプに持ち込んでいる選手も珍しくないですから。
実際にそういう細かい部分の数値が出たり、映像で可視化できたりするというのは、 分かりやすいと思います。投げたボールがこういう回転をしていてこういう軸で曲がっている。となれば、バッターにはどう見えて、どういう効果が期待できるのか明確に分かります。「ボールにキレがない」とか「バッターにとって打ちやすいボール」 だとか、今まで漠然と言われてきたことでも、数値という道標が示されることで改善のポイントが掴みやすくなるわけです。
投手の平均急速は4〜5キロアップ
昨シーズン(2023年)、パ・リーグで3割バッターが2人しか出なかったことが話題になりましたが、特にここ数年はピッチャーの進化が凄まじいと感じています。 数値や動作解析などテクノロジーはもちろん、トレーニングの進化もあって、全体的に10年前に比べたら投手の平均球速が4-5km上がっているような印象を受けます。
バッターは進化したピッチャーに対して受けて立つわけですから、それに伴って今度は相手ピッチャーを分析して攻略していくデータも進化していくわけです。打球速度やスイングスピードを上げるためにトレーニングも変わってくる。
最近はルーキーでも「振れる」選手が多いんですよ。阪神の森下翔太とか、めちゃくちゃ振れていますよね。 年目だった去年も、試合を経験する中でだんだん角度がつき始めて、大きい当たりも出始めた。データを見るとやっぱり打球速度が速いんですよ。
追いかけっこじゃないですけど、そうやって野球全体が凄いスピードでどんどん変わっていく。僕自身、新しいことを取り入れていくのに抵抗は感じないタイプなので、進化していくデータ分析も参考にしながら少しでも上手くなる道を探っています。
尾崎世界観が綴る「数字」のこと
数字のスケールが変わったことで、その世界の価値観そのものまで変化していくというのは、自分でも今まさに体感しているところだ。アーティストたちはもうほとんど「オリコンランキング」を気にしていないし、もっと細かい数字を追いかけなければいけなくなっている。 YouTubeの再生回数やX(旧Twitter)やInstagramに付く「いいね」の数、データ配信やサブスクで聴かれた回数......。ありとあらゆる数値が手元で瞬時に見られる、そんな時代だ。
デバイスもコンテンツもSNSの嗜好も目まぐるしく変わり続けているがゆえに、指標に揺らぎが生じることもある。かつてはアイドルの握手会参加券の影響で、一人が何十枚も何百枚もCDを買うことにより、一般にあまり知られていないような 曲がランキングの上位を占めたこともあった。今はそのようなポイントは排除されているけれど、本当に何が大衆に受けているのか、というのは見えにくくなっているのかもしれない。