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ヤクルト青木宣親と大のスワローズファン尾崎世界観の異色対話…メジャーで感じた「数字の力」尾崎の疑問「人の数字が気になることは?」
posted2024/09/12 11:06
text by
青木宣親×尾崎世界観Norichika Aaoki & Sekaikan Ozaki
photograph by
Miki Fukano
アメリカで感じた「数字の力」
アメリカ人って数字が大好きですよね。人種や文化など多様性のある社会なので、客観的な指標である数字というものは、とても分かりやすい共通言語なのだと思います。僕もMLB時代は、色々な場面で数字をはっきりと示しながら話し合うという状況がありました。
例えばアメリカで最後の年になった2017年、ヒューストン・アストロズでのことです。前年はシアトル・マリナーズでなかなか苦しいシーズンを送っていたのですが、最後の1カ月だけ打ちまくったんですよ。その時のOPSの数値は1000を超えていた。アストロズと契約をした後、キャンプ中にバッティングコーチと個別のミーティングをした時にはっきり言われたんです。
「シアトルでの最後の1カ月の形をそのまま見せてくれ。この数字に出ているから。打球角度、打球速度もこれでいい。このスイングをそのまんまやってくれればいいから」って。
その時「ああ、良かったなあ」とつくづく思いましたよ。マリナーズ時代は本当に苦しかったけれど、シーズン終盤になった時に「ここでダメだったら来年もないぞ」と自分に気合いを入れたんですね。マイナーリーグで打って、メジャー昇格のチャンスを掴んだ。左ピッチャーの時はなかなか使われなかったんですけど、偶然にも対戦相手の先発に右ピッチャーが続いた。それでずっとスタメンで使ってもらえたんです。
もうここでやるしかないぞ、と。それで本当に集中力を高めて打ちまくった。消化試合だろうと何だろうと関係なしです。でもその時、たった1カ月だけど頑張って数字を上げたことが翌年に繋がった。それを見て「青木は復活した」と思って獲ってくれたわけですからね。あの時に諦めなかったから6年目があったんだな、と思えるし、数字を出すことって大切なんだなと改めて感じた出来事でした。
選手と監督、コーチとの会話でも、数字は頻繁に出てきます。このままでいいとか、もう少しこうしてほしい、という会話の中でも必ず数字を見せて、「この数字が上がっていないよね」とか「この数字を上げるためにはどうしたらいいかな」という話になる。ピッチャーも「試合の後半で回転数が落ちているからもう少しスタミナをつけた方がいいんじゃないか」、「じゃあスタミナをつけるのにどうしたらいいか、トレーニングコーチとちょっと話してみて」という感じです。
それが一番明解で、相手を説得するのに一番楽だということなんでしょうね。感覚的に話すより、数字で話した方が分かりやすい。何でもかんでも数字なのはどうかと思う時もあるけれど、数字は嘘をつかない分、会話をする上で感情的にならなくてすむ。公平で効率的だ、という考え方なんだと思います。
「マネーボール」から20年後の数値分析
今、スワローズにはアナリストが3人いますけど、メジャーはアナリストだらけでした。まさに映画「マネーボール」の世界で、ハーバードを卒業しました、スタンフォード出身です、みたいな感じで、野球をプレーしたことのないような人もチーム内にたくさんいる。だから凄く面白いんですよ。