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「練習は毎日2時間半」「スポ薦ナシ」の“偏差値65”進学校が、全国準優勝の関東一を崖っぷちまで追い詰めたナゼ「野球への異常な愛が…」 

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生島淳

生島淳Jun Ikushima

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photograph by(L)Nanae Suzuki、(R)Asahi Shimbun

posted2024/08/31 11:04

「練習は毎日2時間半」「スポ薦ナシ」の“偏差値65”進学校が、全国準優勝の関東一を崖っぷちまで追い詰めたナゼ「野球への異常な愛が…」<Number Web> photograph by (L)Nanae Suzuki、(R)Asahi Shimbun

芝を率いた増田宣男監督(左)と主将の久米崇允選手。久米たち今年の3年生には「野球への異常な愛情があった」と指揮官は振り返る

「16個もありましたか……。ピッチングマシンで対策をしても、実際の投球はやはり違うんですよね。そのレベルの投手がいるチームとは、なかなか練習試合も組めませんし、その状況で坂井君からよく3点を取ってくれました。

 正直、ウチのメンバーは、誰ひとり関東一高さんのレギュラーだけではなく、ユニフォームを着ることさえ難しいと思います。それでも、いい試合が出来たのは、3年生が物怖じしないということも大きかったかと思います。16個の三振を喫しても、攻めるスイングで勝負をかけていったからこそ、数の多さを感じさせなかったのかもしれません」

目標は「甲子園出場」…その現実味

 昨年夏、新チームが発足した時に今年の3年生たちは目標を「甲子園出場」に置いた。それを聞き、増田監督は嬉しい反面、正直、現実味が感じられなかった。

「週休2日、練習時間も2時間半しかない環境で、その目標達成がどれだけたいへんなことか、生徒たちが理解しているのかどうか、不安でもありました。ただ、関東一高戦を見れば、彼らが本気で取り組んでいたことが分かりました」

 こうした目標設定ができるのは、芝の雰囲気にも関係しているのではないかと増田監督は言う。

「例えば東京大学を目指す生徒が近くにいると、周りも影響され、学力が伸びていきます。そうしたトップを目指す風土が、3年生の野球に取り組む姿勢にも影響していたかもしれません。目標を立て、本気で考え、努力する姿勢を彼らは見せてくれたんです」

 芝の卒業生は、大学進学後も野球部に入部するケースも多いという。

「教え子が東京六大学の慶応でプレーしていますし、東都大学リーグ3部の上智、4部の一橋でも野球を続けていて、東都の場合は入れ替え戦になると神宮でプレーする日もあります。彼らが野球を続けてくれていることが、うれしいです」

 この夏、関東一高に冷や汗をかかせた3年生は、夏休みは受験勉強に没頭した――はずだ。増田監督は笑顔で言う。

「たぶん、関東一高の試合を追いかけていたんじゃないですかね。やっぱり、気になると思いますよ。対戦したチームが甲子園の決勝まで勝ち進んだんですから」

 2024年、芝高校の夏。

 きっと、部員たちにとっては生涯、忘れられない夏になったはずだ。

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