スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
「練習は毎日2時間半」「スポ薦ナシ」の“偏差値65”進学校が、全国準優勝の関東一を崖っぷちまで追い詰めたナゼ「野球への異常な愛が…」
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by(L)Nanae Suzuki、(R)Asahi Shimbun
posted2024/08/31 11:04
芝を率いた増田宣男監督(左)と主将の久米崇允選手。久米たち今年の3年生には「野球への異常な愛情があった」と指揮官は振り返る
3年生がこだわっていたのは、「根鈴打法」だった。横浜市で「アラボーイベースボール・根鈴道場」を営む根鈴雄次氏は、独自の打撃理論でプロ、アマチュアの指導に当たってきた。そのなかにはオリックスの杉本裕太郎らがおり、私が取材したところでは、慶応高校の卒業生にも根鈴道場に通っている選手がいた。増田監督は言う。
「根鈴打法は、私が考える打撃とは違う面もあります。ただ、今年の3年生はバッティングについてとにかく熱心だったので、私がそれを『違うんじゃないか』と疑問を呈したり、否定するものでもないなと。今年の場合は、彼らの自主性を尊重した方がいいなと思っていました。最近はバッティングセンターのインスタグラムを見ていると、打撃の動画がアップされていたりしますが、どうもウチの生徒が打っているような動画があったような、なかったような(笑)」
3年生が持っていた「打撃に対する異常な愛」
そのなかで、武田稜平のような打力に自信を持つ選手が出てきて、坂井遼から3点を奪うことができた。ただし、「打撃に対する異常な愛情」を持つ3年生にとって、不運なことがあった。
低反発バットの導入である。増田監督によれば、この新しい基準のバットは現場に大きな影響を及ぼしているという。
「ものすごく影響があります。特にフライについては、急に失速してしまう感じもありますし、ゴロも去年までだったら外野に抜けていた打球が、内野ゴロになっているケースもあると思います」
ただし、一方で投手側からすれば、長打を打たれにくいというメリットも生まれる。
関東一高戦では先発の武田が5回2失点、続く2番手の西尾行雲が2回3分の2を投げて1失点、そして8回途中からは捕手の久米崇允が投手へと回った。この試合がもつれたのは、9回まで関東一高を3人の投手が3点で抑えたからに他ならない。