Number ExBACK NUMBER
「あぁ、伊沢には敵わない…」伊沢拓司が認めたチームメイトは、なぜ競技クイズを辞めたのか? 高校生クイズ優勝“3人の天才”「14年後のいま」
text by
山崎ダイDai Yamazaki
photograph by本人提供
posted2024/09/10 11:04
2010年の高校生クイズで優勝した(左から)伊沢拓司、田村正資、大場悠太郎の3人。いずれも東大に進学したが、競技クイズとのかかわり方には変化が起きた
同時に「高校生クイズ」で、突然スターダムに祭り上げられた経験を経て屈折していく中で、批判的に物事を考える哲学や思想、批評といった学問への興味も強くなっていた。
「大学に入るとその類の学問にもアクセスしやすくなりますから。そういう方向への知的な興味の方が強くなっていきました」
結局、田村は大学院まで哲学の研究をつづけた。専門は現象学の大家であるモーリス・メルロ゠ポンティやフランス哲学だという。この8月には、自身の博士論文をもとにした書籍『問いが世界をつくりだす』(青土社)も刊行した。
大学院を卒業後の現在は、「QuizKnock」を設立した伊沢に請われる形でその一員を務めている。だが、クイズを軸にした新規事業開発が主たる業務であり、いわゆる競技クイズの世界とはあいかわらず一線を引いている。
「自分は普段の生活で得た知識が、なぜか突然輝く瞬間があるというのがやっぱりクイズの醍醐味だと思っていて。競技として勝てればもちろん嬉しいですけど、それ以上に知ることの面白さが分かるというのが一番の魅力だと思うんです。だから、そういう『知る喜び』を伝えるフックになれるのが一番嬉しいですね」
大場も東大へ。競技クイズから離れたワケは…?
そして田村同様、大場も高校卒業後は競技クイズの世界から距離を置いた。
2010年の優勝翌年、またも伊沢とともに「高校生クイズ」に出場し、連覇を達成した。優勝後は大場自身もその影響力の大きさを感じ、周囲の目が変わるのも実感したという。
ただ何より痛感したのは、田村や伊沢というチームメイトとの「差」だった。
「もちろん見ず知らずの人に声をかけられるみたいな、大変なことは私も多少はありました。でも、量でいえばやっぱり伊沢や田村さんの比じゃなかった。にもかかわらず、あの2人はそれを当然のように楽しんでいた」
想像以上の華やかな世界。でも、そこに積極的に飛び込むのはどう考えても自分のキャラではない。求められて、その一部を引き受けることはできるかもしれない。でも、伊沢のようにガンガン前に出たり、主人公としての期待をかけられながら、それを全うする田村のような立ち回りは絶対にできない。
だが、競技クイズを続ける以上は「高校生クイズ2連覇の大場悠太郎」という金看板は絶対に外れてくれないだろう。それでも競技を続けることは、果たして自分のやりたいことなのだろうか?
そうして大場は、大学入学を機に競技クイズではなく歴史学の研究に没頭していった。
一時は研究者の道も考えていたという。だが、その過程でもまた高校時代の後輩の姿が頭を過った。
「研究者としてやっていくには、なんていうんですかね……自分で自分をマネジメントする力が足りなかった。ある目的のために筋道を立てて、そのための傾向と対策を練る。そういう力が私にはなかった。高校時代に『あぁ、伊沢には敵わないな』と思ったのも、そういうところなんですよね」
一方で、そんな葛藤の中でアルバイトしていた塾講師の仕事は妙に性にあった。
自分が楽しいと思う出来事を、自身が教えることで他人も理解して楽しいと思ってくれる。それは高校時代から「先生」と呼ばれ、幅広い知識を持つ大場にとっては天職にも思えた。