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「島根の公立」大社が大躍進のお隣で…全国最長“夏の甲子園9連敗中”「鳥取の私学」が思うこと「やっぱり全国で勝たないと」
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byKYODO
posted2024/08/19 11:06
初戦で明徳義塾に敗れ、スタンドに頭を下げる鳥取城北ナイン。これで鳥取県勢の夏の甲子園は全国最長の9連敗となった
昨年のセンバツに出場するなど、大林が監督になってから鳥取城北は少しずつ実績を重ねている。そんなチームに指揮官が目を細めているのは、選手たちの心の成長だ。
挨拶は「ちは!」といった簡略させたものではなく、「こんにちは!」としっかりと相手の目を見ながら頭を下げる。環境整備に対しても周辺のゴミを拾い、グラウンドの整理整頓も以前より目が行き届くようになった。
現代の高校野球でこれらは基本の「キ」だ。しかし、指導者から「やりなさい」と促されてやっているようでは心からの行動とは言えない。大林が彼らを称えるのは、それらを自分たちの意志でできるようになったことだ。練習試合などで強豪校と対戦するなかで、鳥取城北は「本当の強さは野球だけじゃない」ことを痛感したのである。
「心を成長させてくれることが大事」
大林がチームの歩みを称える。
「キャプテンの石黒を中心に後輩たちの模範になるようなチームになってくれました。うちは私立ですし、野球をするためにここに来てくれたような生徒は、こちらが強く言わなくても野球はしっかりやるんです。そうじゃないところ、高校を卒業してからも自分の足で立って生きていけるような心を成長させてくれることが大事で、今年の3年生はそこにもしっかりと向き合ってくれました」
選手自ら心を研磨する。そこに、元から備わる鍛え抜かれた野球が融合する。
今春から低反発となった「飛ばないバット」に順応するべく、攻撃は送りバントや走塁といった小技の精度を高めて着実に得点する。そして守備では、2年生右腕の田中勇飛と鈴木欧音のリレーで守り抜く。夏の鳥取大会では4試合で16犠打、9盗塁、2エラー。鳥取城北の野球を打ち出しての優勝だった。
しかし、甲子園では勝てなかった。
初戦の相手が強豪の明徳義塾と言っても、頻繁に練習試合を行う間柄である。手の内を把握し、勝機を見出していたなか敗れたのは、「決めるべきところで決められなかった」ことだと大林は厳しい目を向ける。